※作中に登場した令嬢との再会を書いてみました
***
とある春の日──
その日は大きな茶会が開かれ、私は現地に向かっていた。
前通っていた茶道教室にまた私は戻った。
三年ぶりに会った先生はかなり驚いていたけど、私が戻ってきて喜んでくれた。
たった一度しか行かなくて、あの時、あの女性に言われた言葉が胸に棘のように刺さって、行けなくなってしまった。
あの人は一体今どうしているのだろうか。
『あなたがどれほど大切にされていても……続けるのはきっと簡単じゃない。覚悟しておいた方がいいわ。……簡単には結ばれない関係だって』
簡単じゃなかった。
途中で耐えられなくなって逃げてしまった。
でも、河内さんはそんな私を迎えに来てくれた。
そして、私は今、河内さんの伴侶として生きている。
* * *
茶会の控室
中に入ると着物姿の人々が談笑する中、ふと目が合った。
「……あなたはあの時の」
三年前と見た目は少し変わっているけど、あの人だった。
「お久しぶりです」
まさか思い出した直後に再会するとは思ってもいなかった。
「少し外の空気を吸いませんか」
促されて、私は頷いた。
* * *
桜が咲いている庭に二人で佇んでいた。
「……あれから、どうなさったの?」
「ええと……」
色々ありすぎて何から話せばいいかわからない。
その時彼女の視線が私の手に止まった。
「もしかして……河内さんと?」
私は恥ずかしさを隠せないまま小さく頷いた。
「はい」
「そう……よかったわね」
あの時とは違ってとても穏やかな笑みを浮かべた。
「あの時はあんな事を言ってごめんなさい。あなたが来なくなって後悔したわ」
彼女は池の水面を眺めながら
「私は家のために結婚しました。……でも、それもまた幸せなの」
と呟いた。
「よかったですね」
そんな言葉しか出てこない自分が情けなかった。
平凡な家庭に生まれた私には縁のない話。
こんな時代にもまだ残っている風習。
でも彼女が幸せでいる事を知れて嬉しかった。
「優美」
低い声に振り向くと、着物姿の河内さんが庭に現れた。
その存在だけで、景色の色が変わったように感じる。
「ご結婚おめでとうございます、河内さん」
「ご結婚のこと、存じております。お幸せそうで何よりです」
河内さんもまた、静かに礼を返す。
そして彼女は控室の方に戻って行った。
柔らかい春の日差しを浴びながら、私たちはその後ろ姿を見送っていた。
「幸せの形は人それぞれですね」
「そうだな」
春風がそよいで、桜の花びらが舞う。
私はこれからも、この人と肩を並べて歩いていく。
たとえどんな事があっても、ずっと。
──fin

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とある春の日──
その日は大きな茶会が開かれ、私は現地に向かっていた。
前通っていた茶道教室にまた私は戻った。
三年ぶりに会った先生はかなり驚いていたけど、私が戻ってきて喜んでくれた。
たった一度しか行かなくて、あの時、あの女性に言われた言葉が胸に棘のように刺さって、行けなくなってしまった。
あの人は一体今どうしているのだろうか。
『あなたがどれほど大切にされていても……続けるのはきっと簡単じゃない。覚悟しておいた方がいいわ。……簡単には結ばれない関係だって』
簡単じゃなかった。
途中で耐えられなくなって逃げてしまった。
でも、河内さんはそんな私を迎えに来てくれた。
そして、私は今、河内さんの伴侶として生きている。
* * *
茶会の控室
中に入ると着物姿の人々が談笑する中、ふと目が合った。
「……あなたはあの時の」
三年前と見た目は少し変わっているけど、あの人だった。
「お久しぶりです」
まさか思い出した直後に再会するとは思ってもいなかった。
「少し外の空気を吸いませんか」
促されて、私は頷いた。
* * *
桜が咲いている庭に二人で佇んでいた。
「……あれから、どうなさったの?」
「ええと……」
色々ありすぎて何から話せばいいかわからない。
その時彼女の視線が私の手に止まった。
「もしかして……河内さんと?」
私は恥ずかしさを隠せないまま小さく頷いた。
「はい」
「そう……よかったわね」
あの時とは違ってとても穏やかな笑みを浮かべた。
「あの時はあんな事を言ってごめんなさい。あなたが来なくなって後悔したわ」
彼女は池の水面を眺めながら
「私は家のために結婚しました。……でも、それもまた幸せなの」
と呟いた。
「よかったですね」
そんな言葉しか出てこない自分が情けなかった。
平凡な家庭に生まれた私には縁のない話。
こんな時代にもまだ残っている風習。
でも彼女が幸せでいる事を知れて嬉しかった。
「優美」
低い声に振り向くと、着物姿の河内さんが庭に現れた。
その存在だけで、景色の色が変わったように感じる。
「ご結婚おめでとうございます、河内さん」
「ご結婚のこと、存じております。お幸せそうで何よりです」
河内さんもまた、静かに礼を返す。
そして彼女は控室の方に戻って行った。
柔らかい春の日差しを浴びながら、私たちはその後ろ姿を見送っていた。
「幸せの形は人それぞれですね」
「そうだな」
春風がそよいで、桜の花びらが舞う。
私はこれからも、この人と肩を並べて歩いていく。
たとえどんな事があっても、ずっと。
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