あの日から私は秋月さんとは最低限の会話しかしなかった。

エスカレートしなくてホッとしていた。

平和な毎日が続いたのも束の間……

トラブル対応に巻き込まれてその日は残業になってしまった。

「すみません、今日なんとか仕事終わらせてから帰ります」

私は秋月さんに残業申請をした。

「俺も手伝うよ」

え……

ノー残業デーだからか社員がどんどん帰っていく。

嫌な予感しかしない。

「一人で大丈夫です!」

「一緒にやった方が早く終わる」

上司の指示だから仕方ない。

それはそれ、これはこれだ。

暫く二人で無言で仕事をしていた。

もう社員は私達しかいない。

ふと秋月さんを見ると、顔色が悪かった。

「あの……秋月さん大丈夫ですか?」

「うん」

「あとは私がやるので!」

「大丈夫だから気にしなくていい」

でも……

とりあえず私は急いで終わらせた。

「残りの入力終わりました。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

秋月さんは相変わらず調子が悪そうだった。

「同じグループの社員同士なんだから、他人行儀にするなよ」

秋月さんが立ち上がった瞬間、傾いて倒れそうになった。

私は咄嗟に受け止めた。

「秋月さん無理しないでください」

体が熱い。

「受け止めてくれてありがとう。でももう大丈夫だよ」

「でも……」

秋月さんは目線を逸らした。

「自制が効かなくなるから離れた方がいい」

私はびっくりして後退りした。

どういう事……?

秋月さんは私の首元を見ている。

「それずっと気になってたよ」

まさか……

確認したら、少し見えていた。

いつからだろう。

「それを見たら……嫌でも連想する」

「以後気をつけます……」

最悪だ。

「もしかして、彼氏に知られちゃったかな。俺のこと」

私は何も言えず俯いていた。

「わかってるよ。あくまで同じ会社の人間同士でそれ以上でもそれ以下でもない。ただ……」

「どうしても惹かれてしまう自分がいる」

秋月さんの顔は険しかった。

「彼氏に嫉妬しているよ。ただの上司なのに」

その後私の横を通り過ぎて、身支度を整えて秋月さんは帰った。

毅然としなきゃ。

何を言われても、絶対揺らいじゃダメ。

私は必死に自分に言い聞かせた。