目を開けると、窓の向こうはまだ白かった。

カーテンの隙間から差す光が、薄く部屋を照らしている。

河内さんはもう起きていて、スーツの上着を片手に、窓際で雪を見ていた。

「……本当は、今すぐにでも東京に戻ってきてほしい」

振り返らずに言った声に、胸が苦しくなった。

「でも、無理にとは言えない。今度は、お前の心が決まるまで待つ」

テーブルに名刺が一枚置かれた。

裏には電話番号が手書きで添えてある。

「ありがとうございます……」

自分が断った繋がりが、また再び戻ったみたいで嬉しかった。

「……ただ、三年待った。もう、限界なんだ」

振り返った瞳は、いつもの強さとは違って、まっすぐで弱々しかった。

「これ以上、お前なしでうまくやれる自信がない。強がるのも、疲れた」

弱音というより、本音だった。

おそらく誰にも見せない顔だった。

河内さんも、一人で頑張ってたんだ。

私だけじゃなかった。

「……考えます。でも、もう逃げたりはしません。私がもっと強かったら……」

この人をこんなに苦しませなくて済んだ。

そう言うと、河内さんは私の手をそっと包んだ。

「待つ。だから、必ず戻ってこい。俺のところに」

頷くと、彼はようやく上着に袖を通した。

ドアの前で一度だけ振り返る。

「ごめん。苦しかったのに、気づけなかった」

扉が静かに閉まった。

残された部屋で、名刺に書いてある電話番号をスマホを登録した。

短いメッセージを送る。

『来てくれてありがとうございます。優美』

三年離れてわかった。

私達の気持ちは変わらない。

ずっと繋がっている。

河内さんは、置き去りにした私を探しに来てくれた。

私は今度こそちゃんと決めないといけない。

自分の未来を。