「こちらがお部屋になります」

案内された和室は8畳ほどの落ち着いた部屋だった。

窓からは雪景色が見えて、静かで穏やかな雰囲気。

「お夕食は6時からご用意いたします。温泉は24時間ご利用いただけますので、ゆっくりお寛ぎください」

女将さんが去った後、部屋には静寂が流れた。

「えーっと...」

私は荷物を置きながら、なんとなくそわそわしていた。

家で一緒になる事はあるけど、そうじゃない場所だと落ち着かない。

河内さんは窓際に座って、外の雪景色をじっと見ている。

相変わらず考え事をしている。

「河内さん、温泉入りませんか?疲れも取れるし...」

「ああ、そうだな」

河内さんは立ち上がったけれど、やっぱり上の空だった。

温泉は男女別で、私たちはそれぞれ別々に入った。

温泉に浸かりながら、私は今日の河内さんの様子を思い返していた。
朝からずっと何かを考え込んでいるような...

仕事のことかな?

それとも別の何か?

温泉から上がって部屋に戻ると、河内さんはもう浴衣に着替えて座っていた。

* * *

夕食は部屋に運ばれてきた。

お膳を前に、私たちは向かい合って座った。

「美味しそうですね」

「ああ」

河内さんは箸を取ったけれど、やっぱり元気がない。

いつもなら「体に気をつけろ」とか「ちゃんと食べろ」とか言ってくれるのに、今日は黙々と食べている。

「河内さん...」

「なんだ?」

「本当に大丈夫ですか?今日一日、ずっと様子がおかしくて...」

河内さんの箸が止まった。

しばらく沈黙が続いて、やがて小さくため息をついた。

「...少し、考え事があるだけだ」

「仕事のことですか?」

「まあ、そんなところだ」

曖昧な答えだった。

でも、これ以上聞くのも悪い気がして、私はそれ以上追求しなかった。

外では相変わらず雪が降り続いている。

「...こういうのも悪くないな」

河内さんがふと呟いた。

「え?」

「こんな静かな場所で、お前と二人で過ごすのも」

その言葉に、胸がぎゅっとなった。

* * *

食事を終えると、女将さんが布団を敷いてくれた。

二組の布団が並んで敷かれている様子を見て、私はまた心臓がドキドキした。

「ありがとうございます」

女将さんが去った後、部屋にはまた静寂が戻った。

私は浴衣の裾を気にしながら、布団の端に腰を下ろした。

河内さんは窓際に座ったまま、外を見ている。

「まだ降ってますね、雪」

「ああ...明日の朝まで続きそうだ」

「もしかして、明日の予定も変更になるかもしれませんね」

河内さんは振り返って私を見た。

「それでも構わない」

「え?」

「優美」

河内さんが急に私の名前を呼んだ。

「はい」

河内さんは立ち上がって、私の前に座った。
いつもより真剣な表情をしている。

「お前に...聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

河内さんは少し迷うような表情を見せた。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「優美、二人でどこかで暮らさないか」