昨日の夜は家に帰ってからも胸の高鳴りが止まらなかった。
借金の債権者が河内さんになった上に、恋人になって、私の頭はパンクしていた。
翌日の朝──
いつものように出勤したけれど……緊張する!!
震える手で副社長室をノックした。
「はい」
「ふ、藤田です!」
「入れ」
いつもと変わらない河内さんの声。
「お、おはようございます……!」
パソコンで真剣な顔でメールを打っている河内さん。
何事もなかったかのように……。
「おはよう」
私は資料を渡しに近づいた。
「こちら、作成した資料です。ご確認ください」
私も仕事では切り替えようと気持ちを引き締めた。
「ああ」
書類を渡す瞬間、指先が触れた。
心臓がまた跳ね上がった。
「失礼しました……」
平静を装いつつ、副社長室を出ようとすると。
「無理して平静を装ってるのが丸わかりだ」
バレていた。いや、もうこの人に隠し事は通用しないのかもしれない。
「仕事に集中できないくらい俺の事で頭がいっぱいなのか……」
「いえ…色々重なってまだ気持ちの整理ができてないんです。」
河内さんが立ち上がった。
「じゃあ、今日俺の家に来い。」
「え!?」
それじゃ逆効果だ……!!
そのまま河内さんは外出してしまった。
* * *
仕事が終わった後、私は河内さんの家に行った。
インターホンを押すと、玄関が開いたその先には……
シンプルで落ち着いた色の着物を着た河内さんがいた。
「え?河内さんなんで着物着てるんですか!?」
河内さんはスーツの時と違って、落ち着いた色気を醸し出していた。
「とにかく上がれ」
いつもと違う雰囲気の河内さんにドキドキしながら案内された部屋に行った。
そこは、和室だった。
そして、そこには茶道の道具らしきものが一式揃えられていた。
「河内さん、茶道をやってるんですか!?」
まさかそんな趣味があるとは!!
「そこに座れ」
私は河内さんに言われた場所に正座した。
「あの……私何も作法がわからないんですが……」
「黙って見ているだけでいい」
河内さんは慣れた所作で茶道のお点前をしている。
静かな空間に茶筅の音が微かに響いた。
そして茶碗が差し出された。
「飲んでいいんですか?」
河内さんは頷いた。
私は河内さんが立ててくれたお茶をゆっくり飲んだ。
「美味しいです!」
着物姿の河内さんにお茶を立ててもらえる幸せに浸っていた。
「お前もやれ」
「はい?」
「お前もこのくらいできるようになれ」
「なんでですか?」
「心が落ち着くからだ」
確かに、河内さんのお点前を見てたらとても気持ちが落ち着いた。
「茶道の件は前向きに検討してみます」
その後、茶菓子を見せてくれて、何個か食べさせてもらった。
「あー!幸せです!満足です!」
立ちがろうとしたら足が痺れてよろけてしまった。
河内さんが咄嗟に抱き止めてくれた。
「すみません……ありがとうございます」
そのまま河内さんの腕の中に──
「俺は満足してない」
そうだ、私たちは恋人なんだ……
「どうすればいいですか?」
河内さんは少し考えていた。
「まず、俺の事をもっと知った方がいい」
「はい!知りたいです!」
私はその時盛大な勘違いをしていた。
『知る』というのは河内さんの素性ではなくて、河内さんという人間そのものだった。
男を知らない私に、河内さんは教えてくれた。
知った時、心が折れそうになった。
「無理です怖いです!!」
「ただ見せてるだけだ……」
でも、私はこの人の事をもっと知りたいし、恋人としてちゃんと向き合いたい。
返さないといけないものも沢山ある。
だから、これからも頑張る。
──帰りの車の中
「今度、馴染みの人が開いている茶道教室に連れていく。優美も着物を着せて連れていく」
「え!私着付けできませんよ!?」
「俺が着付ける」
「いえ、自分でなんとかします。」
また新しい世界に一歩踏み出す事にした。
借金の債権者が河内さんになった上に、恋人になって、私の頭はパンクしていた。
翌日の朝──
いつものように出勤したけれど……緊張する!!
震える手で副社長室をノックした。
「はい」
「ふ、藤田です!」
「入れ」
いつもと変わらない河内さんの声。
「お、おはようございます……!」
パソコンで真剣な顔でメールを打っている河内さん。
何事もなかったかのように……。
「おはよう」
私は資料を渡しに近づいた。
「こちら、作成した資料です。ご確認ください」
私も仕事では切り替えようと気持ちを引き締めた。
「ああ」
書類を渡す瞬間、指先が触れた。
心臓がまた跳ね上がった。
「失礼しました……」
平静を装いつつ、副社長室を出ようとすると。
「無理して平静を装ってるのが丸わかりだ」
バレていた。いや、もうこの人に隠し事は通用しないのかもしれない。
「仕事に集中できないくらい俺の事で頭がいっぱいなのか……」
「いえ…色々重なってまだ気持ちの整理ができてないんです。」
河内さんが立ち上がった。
「じゃあ、今日俺の家に来い。」
「え!?」
それじゃ逆効果だ……!!
そのまま河内さんは外出してしまった。
* * *
仕事が終わった後、私は河内さんの家に行った。
インターホンを押すと、玄関が開いたその先には……
シンプルで落ち着いた色の着物を着た河内さんがいた。
「え?河内さんなんで着物着てるんですか!?」
河内さんはスーツの時と違って、落ち着いた色気を醸し出していた。
「とにかく上がれ」
いつもと違う雰囲気の河内さんにドキドキしながら案内された部屋に行った。
そこは、和室だった。
そして、そこには茶道の道具らしきものが一式揃えられていた。
「河内さん、茶道をやってるんですか!?」
まさかそんな趣味があるとは!!
「そこに座れ」
私は河内さんに言われた場所に正座した。
「あの……私何も作法がわからないんですが……」
「黙って見ているだけでいい」
河内さんは慣れた所作で茶道のお点前をしている。
静かな空間に茶筅の音が微かに響いた。
そして茶碗が差し出された。
「飲んでいいんですか?」
河内さんは頷いた。
私は河内さんが立ててくれたお茶をゆっくり飲んだ。
「美味しいです!」
着物姿の河内さんにお茶を立ててもらえる幸せに浸っていた。
「お前もやれ」
「はい?」
「お前もこのくらいできるようになれ」
「なんでですか?」
「心が落ち着くからだ」
確かに、河内さんのお点前を見てたらとても気持ちが落ち着いた。
「茶道の件は前向きに検討してみます」
その後、茶菓子を見せてくれて、何個か食べさせてもらった。
「あー!幸せです!満足です!」
立ちがろうとしたら足が痺れてよろけてしまった。
河内さんが咄嗟に抱き止めてくれた。
「すみません……ありがとうございます」
そのまま河内さんの腕の中に──
「俺は満足してない」
そうだ、私たちは恋人なんだ……
「どうすればいいですか?」
河内さんは少し考えていた。
「まず、俺の事をもっと知った方がいい」
「はい!知りたいです!」
私はその時盛大な勘違いをしていた。
『知る』というのは河内さんの素性ではなくて、河内さんという人間そのものだった。
男を知らない私に、河内さんは教えてくれた。
知った時、心が折れそうになった。
「無理です怖いです!!」
「ただ見せてるだけだ……」
でも、私はこの人の事をもっと知りたいし、恋人としてちゃんと向き合いたい。
返さないといけないものも沢山ある。
だから、これからも頑張る。
──帰りの車の中
「今度、馴染みの人が開いている茶道教室に連れていく。優美も着物を着せて連れていく」
「え!私着付けできませんよ!?」
「俺が着付ける」
「いえ、自分でなんとかします。」
また新しい世界に一歩踏み出す事にした。


