私は仕事が終わった後、すぐに実家に電話をかけた。

そして借金の債権者が変わったことを伝えた。

副社長と言うのは流石に両親を動揺させると思って『上司』と濁した。

「その人は信頼できる人なのか?直接お話しできるか?」

父の不安そうな声。

なんて言えばいいんだろう……

そばには河内さんがいる。

私は河内さんにドライブに一緒に行くように言われて、今は夜景が見える駐車場にいた。

「河内さん……父が話したいと言ってるんですが」

河内さんは電話をかわった。

「初めまして、藤田さんの上司の河内と申します。藤田さんが借金の返済に困っていると相談を受けたので、私がこの様な形にさせて頂きました。期限などは設けておりませんのでご安心ください」

別人のように穏やかで誠実な男性を演じている河内さん。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」

父の言葉に胸が苦しくなった。

「いえ、藤田さんには仕事でサポートして頂いてとても助かってるので気にしないで下さい」

そのあとまた電話をかわった。

「お父さん、そういう事だから、安心して」

「優美、大丈夫か?その人は信頼できるのか?」

信頼……

でも私は河内さんに助けられている。

「うん……大丈夫だよ。私河内さんのために仕事頑張るから。お父さんもお母さんも心配しないで」

そして電話を切った。

「河内さんありがとうございます。丁寧に説明して頂き……」

河内さんは何故か不満そうだった。

「どうしたんですか?」

「俺と付き合ってると言えばいい」

「え!?何でですか?」

私の顔をじっと見ている河内さん。

「あの時の返事をまだもらってない」

あ……そうだ、付き合ってほしいと言われて、返事はいつでもいいと言われたから、そのまま放置してしまっていた。

「あの……そのお返事の前にお伺いしたいのですが、河内さんは一目惚れというだけで私にここまでしてくれるのはなぜなんですか……?」

「……初めて会った時、無理をしてるのがわかった」

「……わかっちゃったんですね」

男の人と付き合った事がない、お酒も飲めない……

かなり無理はしていた。

でもそんな事、誰かに言われた事はなかった。

「俺も結構無理して今の仕事やってるから」

「え……?」

河内さんの事について私はあまり知らなかった。

私は………

この人の事を知りたいと思った。

「私、河内さんとお付き合いします。」

「……本当か?」

河内さんは驚いた表情をしている。

「ただ……」

「ただ?」

「私は男の人と付き合うのが初めてなので、正直怖いです」

河内さんは仕事では信頼できる人だ。

だけど、男女の関係となると話は別だ。

「わかった。お前が嫌な事はしない」

河内さんは真剣な表情だった。

「俺たちは今から恋人同士。あの約束は、なくしていいか?」

あの約束……接待以外の事はしないと約束した。

でも、恋人になったらもう接待ではない。

「安心しろ。俺はお前の事を大切にする」

その時、河内さんは私をそっと抱き寄せた。

怖い……だけど、安心する。

「これからは恋人としても、俺といろ」

胸が高鳴る。

目があった瞬間、唇が触れそうになった。

あの時はびっくりして逃げてしまったけど、私は逃げなかった。

私は恋に落ちたのかもしれない……