天才発明系男子の過保護な愛情〜病弱な私との歪んだ未来図

◯カフェ店内 引き続きバイト中の紗雪と蒼空

女性客が視線をキョロキョロと彷徨わせていることに気づいた紗雪が以前とは違い、スマートに声をかける。

紗雪「お客様、ご注文でございますか?」

女性客「あ、はい!お願いします!」

安心したような表情を見せるお客様に紗雪も笑顔を返す

紗雪モノローグ【あの日以来、ここでのバイトにはずいぶん慣れてきた。心配だった体調もそんなに崩れること無く、今はけっこう楽しく働けている】

蒼空「紗雪、足は疲れてないか?この筋肉疲労軽減ソックスを試してみないか?どうだ?」
期待に目を輝かせながら訪ねてくるが、紗雪はNOを突き返す。

紗雪(相変わらず隙あらば変なもの渡してこようとするけど...)

※場面転換※

紗雪「...あ、はちみつが無いので倉庫から取ってきますね。」
倉庫に向かう途中に先輩たちの会話が耳に入る。

ギャル店員「ありがと〜よろしく、てかリンカめっちゃネイル剥げてない?」
ギャル店員「そ〜皿洗ったり重いの運んでたらやっぱダメだわ〜マジやりたくねー。」

紗雪(ネイルかあ...ここの先輩たち、みんなしてるもんなあ。大変そう...)


○バックヤードの倉庫
倉庫内では店長が段ボールに囲まれながら仕入れ作業を行なっていた。

紗雪「お疲れ様です、店長。手伝いましょうか?」
店長「ああ、紗雪ちゃん。ありがとうね。でもいいよ。この辺重いの多いからさ。...いっててて」

台車から段ボール箱を持ち上げる時に腰をさする店長。

紗雪「だれか呼んできましょうか?蒼空とか。」
店長「そうだね、お願いしようかな。やっぱり力仕事は男として、若い女の子にはなかなか頼みづらくてね。」
紗雪「そうですよねー」(ギャル多いもんなあ)
店長「あ、紗雪ちゃんにも勿論感謝してるよ?みんなネイルを気にして洗い物とか避けがちだから率先してくれて助かってるよ。」

紗雪(...確かにさっき、そんな事言ってたなあ...)

蒼空に声をかけに行きながら紗雪は考えを巡らせる

紗雪(洗い物とかはどんどん溜まっていくからみんなが率先してできたほうがいいんだけどな。でも美月も「ネイルは命!」って言ってるし...。)

蒼空「重いものを紗雪に持たせるなんて事はさせられない。俺がいく。」

紗雪(重いものは正直、性差としてどうしようも無いところあるよね。発明品とか関係なく蒼空の方が力もあって...発明品...)

ピーんと閃いてニヤリと笑う紗雪
紗雪「蒼空、発明品の禁止令を解くわ。作ってほしいものがあるの。」
蒼空「!おおっ!なんでも言ってくれ!紗雪がそう言うなら俺は何だって作ろう!?...紗雪?」
ニヤリとしている紗雪に蒼空が怪訝な表情を浮かべる

○数日後

店長&ギャル「な、なんじゃこりゃー!」

蒼空「これは昇降型キリンホイール台車と言います。
持ち手にあるボタンを押すと台座の高さが変わりますので、店長も今までみたいにかがんで仕入れをする必要は無くなりますよ。」

台車の車輪が真上に伸びて店長の腰辺りまで台座を押し上げている。

店長「おお、これはラクだ!蒼空くん本当にありがとう!」

ギャル「やったじゃん、店長〜。」

蒼空「まだありますよ。従業員のみなさんにはこれです。」

蒼空が小さな透明板のようなものと液体の入った容器をギャルたちに配り、みんながハテナを浮かべる。

蒼空「みなさんがネイルを気にして上手くできない作業が多いと聞いたので、これを爪の上に装着して液体をかけてみてください。」

蒼空の言うとおりにすると、バチンという音と同時に爪にガッチリと透明板が張り付く。

ギャル「やば!なんか爪にくっついたんですけど!?」

蒼空「形状記憶型ネイルプロテクター」です。特殊な樹脂を使用してみなさんの爪のカタチに合わせた強固なプロテクターが形成されます。爪をぶつけたり洗剤を使ったりしてもガッチリくっついて離れません。」

ギャル「え!マジ助かるんですけど!!」

蒼空「これ置いとくんで、皆さんも皿洗いとか文句言わずやってくださいね。紗雪に任せ過ぎずに」

ギャル「うん、分かったー!ありがとー!」

蒼空がギロリと一瞬睨んだが、ギャル達は特に気付かずネイルプロテクターで大盛り上がりする。

紗雪「蒼空、色々作ってくれてありがとね。任せちゃってさ」
蒼空が一息おいて、真剣な表情で返事をする。
蒼空「いや、礼を言うのは俺のほうかもしれない。」
紗雪「え?」
蒼空「俺には紗雪以外に発明品を使うなんて発想がなかったからな。紗雪がネイルをしない限り、この作品は生まれなかっただろうな」
紗雪「ああ、そう...」若干の呆れ顔
蒼空「だが、不特定多数の人間に感謝されるものを作る...こういうのも悪くないと思えたよ。ありがとう、紗雪」

珍しく穏やかな笑顔と真剣な口ぶりの蒼空に、紗雪は少し照れ笑いする。

ギャル「そーらくんー!もう、まじ嬉しいー!!お礼にチューしてあげる〜!」

テンション上がったギャルの1人が背後から勢いよく蒼空に抱きついてくる。

蒼空「い、いらん!ちょ、離してください!」

蒼空は必死に引き剥がそうとしているが、紗雪の顔からはスッと笑顔が消えて胸のあたりがモヤっとする。

店長「はいはい。オープンするからみんな持ち場に戻ってねー」
店員たち「はーい」

開店後、紗雪はテキパキと働いてはいるが
頭の中ではさっき蒼空がハグされていたシーンが焼き付いていた。

紗雪(蒼空の発明品が役立って私も嬉しい...でもさっきのは、なんか...なんだろう)

モヤモヤが晴れないまま、1人の男性客の元へ注文を聞きにいく。

紗雪「ご注文をお伺いいたします・・・あの?」

男性客は顔が赤くうつろな目をしており、酔っ払いのように見える。紗雪をジロジロと舐め回すように見てニヤけている。

男性客「この店派手な女が多いけど、キミは清楚でカワイイねえ。もっと近くで顔見せてよ」

男性に腕をつかまれて引っ張られる

紗雪「いやっ・・・」

即座に男の手を紗雪から引き離して間に入る蒼空。

紗雪「蒼空...!」

笑顔は保っているが内心の怒りが隠せておらず、口元がひくついて開いた瞳孔が鋭く光っている。

蒼空「お客様?店員に対する同意無しの私的な接触は固く禁じられておりますが?そういった行為を見かけた場合は速やかに通報の後、社会的な駆除を行わせていただきます。宜しいですか?」
男性客「・・・あ、ハハ、ちょっと用事思い出したから帰るわ!すまんねえ!」

男は怯えながら大慌てで店内を出ていく
紗雪はホッと胸を撫で下ろす

紗雪「ありがとう蒼空。こういうのもだいぶ慣れたつもりだったけど、また助けられちゃったね」
蒼空「慣れなくていい。すぐに俺を呼んでくれ。...俺は、キミが他の男に触られるのは見ていて我慢ならないんだから」

紗雪「ええ?あんなセクハラおじさんにヤキモチなんて焼かないでよーーー」
さっきの蒼空がハグされてた時の気持ちを思い出す紗雪

紗雪(もしかして、私も同じ?この感情も...ヤキモチ?)

第5話終盤の「大好きに決まってる」という蒼空のセリフを鮮明に思い出して、心臓がドクンと高鳴り、顔が真っ赤に染まっていく。

紗雪(なんでこんなタイミングで思い出すの!?あれは気にしないでって蒼空も言ってたのに。なんで急にドキドキしるのー!?)