天才発明系男子の過保護な愛情〜病弱な私との歪んだ未来図


〇とあるカフェ店内 
お昼時で賑わっている店内
ウェイター姿の蒼空と紗雪

店長「蒼空君か紗雪ちゃーん!レジ混んできてるからどっちかお願い~!」

蒼空「はい、わかりま」
紗雪「は、はい!ただちに参ります!蒼空、大丈夫!私が行くから!」
お盆の上の皿やグラスを落とさないようにバランスを取りながらレジまで移動

蒼空「紗雪、そんな急がなくても…!」

紗雪「お客様、大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。えー、カルボナーラ1点、アイスコーヒー1点でございますね。お待たせいたしました、合計1,800円でございます!」
ギャル店員「紗雪ちゃん、スピードアップ!」
紗雪「はい!すみません!」

紗雪モノローグ【突然ですが私は今、蒼空と一緒に人生初のアルバイトに挑戦しています。なぜこうなったかというと、時間は夏休み前にさかのぼり…】

〇回想 夏休み前 2年3組の教室

暑さにやられて自分の席でグッタリと突っ伏している紗雪。(その下には成績表)。

美月「今回も首席おめでと~!紗雪マジすごいわ~」
紗雪を扇子で仰いであげながら

紗雪「ウン、ガンバッタ」
白目向いて真っ白になってる

美月「紗雪は貧血気味だから夏も大変だよね~。今年の夏休みもお出かけの予定は無い感じ?」
紗雪「…実はバイトしてみようと思ってるの。今探してて…」
蒼空「なにいぃぃぃぃ!?」

どこからともなく蒼空が走ってきて紗雪の肩を掴み眼前で捲し立てる。

蒼空「バイトだと!?正気か紗雪。今の君の身体状況に労働を課すというのはとんでもない負担になるぞ!例年通り、室内での勉強や読書・百歩譲って映画鑑賞に励んだほうが安全だ!考え直せ!」
紗雪「それは分かってるけど!医者になるには学力だけじゃなくて社会経験も大事でしょ?それに自分が過保護に育てられてきた自覚もあるから、私の今の能力が社会でどこまで通用するのかも試してみたいの」
蒼空「それは…一理あるが、今じゃなくても…大学に行ってからとか…」
紗雪の固い意志と真剣さに蒼空の反論も勢いを無くす

美月「あ、そういえばアタシの叔父さんがやってるカフェで短期バイト探してた気がする。紗雪行ってみる?」
紗雪「え、いいの!?」
蒼空「美月くん!?」
美月「初バイトだし紹介で行ったほうが安心っしょ?」高速でスマホで叔父にメッセージを送る美月

美月「OKだって。男手もあると助かるって言ってるけど、蒼空君も行く?」
紗雪「へ?」

一瞬、口元に手を当てて考えた後
蒼空「いいだろう。俺もそばにいてサポートができるというのなら、紗雪のバイトも許可できる」
美月「いえーい。叔父さんマジ助かるってさ~」
紗雪「え、ちょ、ええ!?」

紗雪(せっかく私1人で頑張るつもりだったのに、蒼空が来ちゃうと意味ないじゃん…!でも来ないでって言えない雰囲気になっちゃった…)

蒼空「カフェということは立ちっぱなしだろうから紗雪が座ったまま移動できるようなもの作れないか…」
紗雪「ちょっと待って!一緒に働くのはしょうがないとして、変な発明品使うのは禁止だからね!?」
蒼空「はっ!?なぜ!?」
紗雪「今回のバイトは私の力試しだって言ったでしょ?蒼空の助けがあったら意味ないから!」
蒼空「でも」
紗雪「禁止ったら禁止!変なの使ったらま…(一瞬迷うが)また絶交するから!!」
第2話での絶交がトラウマなのか、雷に打たれるほどのショックを受けて渋々了承してしまう

〇回想終了 
カフェ 休憩室から店内へ戻る途中の紗雪

紗雪(わたしの力だけで頑張りたいなんて、大口叩いたけど…失敗ばかりで全然ダメ!しっかりしないと…)

今までの数々の失敗↓を思い出しながら店内へ戻る
・注文を間違えたくないので注文を何回も確認して料理名も正確に言いすぎて客にうっとうしがられる
・お皿をさげるときにキレイな積み方を考えすぎて時間がかかる、通路のジャマになる

ギャル店員「蒼空くん、あのテーブル片づけて次の4名様呼んでー」
蒼空「はい、わかりました」
ギャル店員「蒼空君まじシゴデキで助かるわ~」
ギャル店員「さわやかイケメンだしマジ目の保養」

先輩たちからの指示もテキパキとこなして褒められている蒼空を見て、うらやましさからムッとしてしまう

紗雪(なんとなく分かってたけど蒼空って優秀なんだよね。訳分からないことばっかりしてるけど、お店でも周りをよく見てて動きがスマートでカッコイイ…ふんっ!私だって、私だって…完璧にこなしてみせるんだから!)

その後は意気込みが空回りして派手なミスを連発↓
・無理して料理をたくさん運ぼうとしてみんなに止められる
・急いでお客様のオーダーを聞こうと小走りしてコケる
・レジの早打ちを意識しすぎて、お会計がとんでもない額になる

〇再び 休憩室
チーーーンと撃沈して机に突っ伏している紗雪。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる
紗雪(知らなかったなあ…私ってこんなに無能だったんだ…こんなんじゃ医者どころかまともな社会人にすらなれないんじゃ…)

蒼空「…ひどい顔色だ。バイタルを確認するまでもない不調が見える。」

紗雪が顔をあげると蒼空が険しい顔をして立っている。

蒼空「…俺を頼ればいいものを。禁止されてはいるが持ってきている。いつでも解禁可能だ。」
紗雪の隣の席に座る。

紗雪「ダメ。自分1人で完璧にできないと、意味ないじゃない…。」(そう、蒼空みたいに…)

蒼空「紗雪。完璧を求めるな。そんなものは幻想だ。」
紗雪「え?」
蒼空の横顔を見るが、蒼空は正面を向いたまま言葉を続ける

蒼空「完璧な接客なんてものは存在しない。俺は目の前で起きたことや指示をただ遂行することに集中している。俺から言わせれば、紗雪のムダに明るくて可愛い接客スマイルもバカ丁寧な敬語もまったくもって不要だ。」

紗雪「でも、笑顔と真心を持った接客は大切でしょ?」

蒼空「それらは経験と知識が身につけば自然とついてくるものだ。君はバイト初心者なんだから初めから欲張るな。君の目の前にいる客が今求めているものはなにか。それが接客バイトにおける最優先事項だ。」

紗雪「…最優先事項」
蒼空「客はみんな食事に来ている。食事できるかどうかそのものに関わる要求は最優先、食事のための心地よく清潔な環境を提供することが二次優先。店員として良い印象を持ってもらうことの優先度はかなり低い。対応の質をあげるのは後回しだ。」

紗雪(優先度に応じた対応の質を検討…)ハッ!と目を見開く
紗雪「それってトリアージ?」

蒼空「そうだ。リソース(資源)が限られた状況で、最大の犠牲で最大の救命効果を得るための医療現場におけるもっとも効率的で公平な判断手法だ。」

紗雪(限られた私の体力や時間、スキルで最優先事項を見極めて要求を叶える…内容が食事提供か人命救助という違いはあれど、現場で判断して動くって点ではどちらも同じなのかも…)

蒼空「...と、いうか!俺がこんなにも手を出したいのを必死で我慢しているんだ! 俺をハラハラさせないでくれ!このままじゃ俺は、君に労働という名の地獄を課しているこの店ごと破壊しかねない!!俺の我慢が報われると思わせてくれ!」
急にヒートアップして肩をつかまれながら必死に懇願される

紗雪「分かった!!分かったから!!やってみるから!!」


〇カフェ店内 休憩が終わって戻ってきた紗雪

紗雪(お客様が求めていること...それが最優先で果たすこと...)

子連れママ「すいません、注文したナポリタン、いつ来そうですか!?」子供が「まだ〜?」とぐずっている

紗雪「…!」(まずは一旦丁寧に頭を下げて「大変申し訳ございません」と謝罪して、すぐに確認してまいりますので少々お待ちください…)

蒼空のセリフ回想
"君の目の前に現れた客が今求めているものはなにか。それが接客バイトにおける最優先事項だ"

紗雪「すみません!すぐ確認します」
軽く礼だけして厨房へと確認に急ぐ。

(あ。申し訳ございません、確認してまいりますが正しいのに…立ち止まって謝罪すべきだったかもだけど…今は確認が大事だ!)

すぐにさっきのテーブルへ戻って
紗雪「お客様、あと3分もかからず提供できるとのことです!」
子連れママ「あ、分かりました!ありがとうございます!」安堵した表情を見せる

紗雪もホっと胸をなでおろす

紗雪(そうだ。仕事のマニュアルがあるとしても、これは人と人とのコミュ二ケーション。人間関係に正解がないように、接客にも基本はあっても正解はないから完璧なんてないんだ...蒼空の言う通りだったな)

それからは気負いすぎずに、自然体で接客ができるようになる。

ギャル店員「さゆぴ、お疲れ!今日めっちゃいい感じだったじゃん!明日もよろしくね!」
紗雪「…ありがとうございます!」
近くにいた蒼空のほうを振り返って、誇らしげに笑う

そんな紗雪に蒼空も安心したように微笑み返す。

紗雪モノローグ【発明品がなくても結局、蒼空に助けられちゃったね。でもね、蒼空の言葉で変われた自分が何だかとっても嬉しいんだ。…どうしてだろうね?】