天才発明系男子の過保護な愛情〜病弱な私との歪んだ未来図

◯あの雪の日(14話)から数カ月
高瀬家の前で、緊張した面持ちで立っている紗雪

蒼空「紗雪、大丈夫か」
紗雪「だいっ...大丈夫よ、全然!」
蒼空「...なにか言われても俺が必ず説得して守るから。俺たちの気持ち、全部伝えよう?」
紗雪の手をそっと握る

紗雪「...うん」

蒼空の母が玄関で出迎え、客室に通されてお茶を出される。蒼空は紗雪の隣に、蒼空母は紗雪の正面に座る。

蒼空母「いらっしゃい、紗雪ちゃん。あの日以来だね。...元気だった?」
紗雪「はい、おかげさまで」
蒼空母「なんか2人で私に言いたいことがあるんだって?」

お茶をすすりながら表情を変えずに聞く。

紗雪「...はい。」

膝の上に置いた拳をぎゅっと握り、蒼空の母の目をまっすぐ見据える。

紗雪「あの日、先生みたいな医者になるのは諦めろって言われて...考えました。そのとおりだと思いました。身体が弱い私は医師として患者を助ける側には行けない。だから...諦めました。」

蒼空母は紗雪の目を見つめて話をじっと聞いている。

紗雪「なので、先生と同じ内科系は諦めて...病理医を目指すことにしました。」

蒼空母「病理医...」

紗雪「色々調べてみました。この仕事は解剖や研究が中心で救急対応などは少ないから、身体的負荷は医療業界の中では比較的少ない。わたしは先生みたいに直接患者さんを助ける事はできないけど、今まで培ってきた知識や、夢を目指してきた情熱は決して引けを取らないと思っています。わたしは先生のような素晴らしい医者を助ける医者—— 病理医を目指します。それがわたしの今の夢です」

紗雪の話が終わっても蒼空母が何も言わないのを見て、蒼空も続いて口を開く。

蒼空「...母さん、俺も医者にはならない。気付いてたとは思うけど、医者になることをあの日の逃げ道にしていたこと、本当にごめん。
俺は将来、医療器具の製作や開発なんかに携わりたいんだ。 激務で過酷な医療業界で働く紗雪や母さんのような人たちを支えられるようなものを作りたいと思ってる。...俺たちが決めた道を、どうか認めてほしい。」

2人で蒼空母へ頭を下げる。
蒼空母はふーっと息を吐き出した後、ゆっくりと口を開いた。

蒼空母「なーんだ。そんなことか」
紗雪「え...」
蒼空母「結婚の挨拶に来たのかと思ったよ。」
紗雪「け、けっこん!?」
一気に顔が赤くなり両手で頬を挟む

蒼空母「いいんじゃない?病理医なら患者の面前には早々現れないから、万が一倒れても 患者の不安をあおることもないだろうし。アンタ(蒼空)も医者になりたいワケじゃなかったことくらいお見通しだから。」

蒼空「母さん...」
蒼空母「廃棄予定だった私の医療器具、勝手にパクって分解したり変な改造してたりしたことは、 またいつか話すとして...だ」
ゴゴゴっと怒りの様子に蒼空は母から目をそらす。

紗雪(あ、あの変な発明品たちの素材ってそうだったんだ...)

蒼空母「そこまで自分たちの気持ちや身体を理解したうえで、明確な目標ができてるなら、親としても言う事はもう無いかな。頑張ってみたら?」目を細める

紗雪「はい...!ありがとうございます!」

もう一度2人で頭を下げる。

蒼空母「で?結婚はいつ?」
顔がボッと赤くなってしまう紗雪

蒼空「母さん、からかわないでくれ。大学合格後すぐにだ。」真顔で言う
紗雪「蒼空!?」


紗雪モノローグ【あの雪が降った日、私達はそのままたくさんの事を話し合った。出会った日から今日までの話。ツラかった事や嬉しかった事。将来の夢。離れたくないというお互いの想い。
そうしてそれぞれが新しい夢のカタチを見つけ出し、今度こそお互いの夢を支え合えるような関係になろうと誓い合った。】

〜場面転換〜

○放課後の校内で蒼空・紗雪・美月・大地の4人で話している 

美月「そっか〜蒼空ママにもお話できたんだね〜!よかったね紗雪!」

紗雪「うん。とりあえず医学部目指して勉強を頑張るっていうのは変わらないけど。蒼空は医学部から工学部に希望変更したんだ。」

美月「そっかぁ。アタシも農学部希望だから、みんな理系だね!3年も同じクラスがいいな〜」

蒼空「農学部なのか...意外というかなんというか」

美月「だってウマイお野菜とかもっと食べたくない?」

紗雪「大地先輩は...」

大地「俺はロンドンに留学するよ。学生のうちに世界を知っておく方がいいかなって」

蒼空「イギリスって言え、カッコつけが」

大地「紗雪ちゃん、よかったら遊びにおいでよ。ロンドン案内するよ」
紗雪にズイッと顔を近付ける

蒼空「その時は俺も一緒に行かせてもらいますよ!彼氏ですから!」
紗雪の手を取って、自分の方へグッと引き寄せる。
紗雪「ちょっ...!?」

顔を赤くする紗雪を見て、大地は一瞬、安心したように目を細める

大地「はぁ。前の君たちのほうがイジり甲斐あって面白かったのになぁ...」

紗雪モノローグ【それぞれが、未来に向かって進んでいくーーー】

○放課後 帰り道
蒼空と紗雪の2人で歩いている

蒼空「ほんとにナンパ野郎だな...」
紗雪「あはは...でもいつか行ってみたいんだよね、海外も」
蒼空「でも、あの人と3人でなんて嫌だね!だって俺たちはまだ、ろくにデートらしい事もできていないじゃないか!」
紗雪「あぁ...あの雪の日で2人ともめっちゃ風邪ひいたもんね。クリスマスも正月もろくに会えずに、そのまま学期末試験に突入...」

蒼空「...俺は今年こそ、紗雪とクリスマスマーケットに行きたいんだが...」少し照れながら伝える

紗雪「今年はダメよ!センター試験目前なんだから!最後の追い込みよ!」
蒼空「そっか、じゃあ再来年になるかな...」
紗雪「そうだね。再来年から...一緒に行こう。」

蒼空の手を強く握ると、蒼空もそれに気づいて握り返す。見つめ合い、自然とお互いが顔を寄せ合い唇が重なる。

2人は笑い合って手を繋ぎ歩いていく。

紗雪モノローグ
【わたしは身体が弱い。だけど、どうしても譲れない夢がある。それを叶えるには貴方と、貴方が与えてくれる、時には歪んでしまうほどの大きな愛が不可欠だから。

だからどうか、この手を離さないでね。
これからも先もずっとーーー】

紗雪と蒼空が手をつないで一緒に帰っていく後ろ姿。
溶けた雪で作られた地面の水たまりに
5歳の頃の2人が笑顔で手をつないでいる姿が映っている