天才発明系男子の過保護な愛情〜病弱な私との歪んだ未来図

12話の回想
高瀬母「蒼空の紗雪ちゃんに対する好意や応援は、おそらくそのほとんどが罪の意識からくるものだよ。」

紗雪モノローグ【あれからも、蒼空とは相変わらず目も合わない日々。休憩時間も蒼空は教室から姿を消すため授業中以外は視界に入ることさえもなくなってしまった】

蒼空母「私のような医者になる夢はあきらめるべきよ。」

紗雪モノローグ【先生の言葉をただ否定したくて、睡眠時間も自由時間も削ってひたすらに勉強した。絶対に夢を叶う、叶えてみせる。そう信じてー】

◯授業中
教師「じゃあこの問題を、増村。解けるか?」
紗雪「はい。ーーっ」
立った拍子に目眩を起こしてフラつき、床にへたり込む。

教室はざわつき、蒼空が咄嗟に紗雪の元へ駆け寄ろうと立ち上がりかけたが、グッと唇を噛んでやめてしまう。

教師「おい、大丈夫か?誰か保健室へ」
美月「はい!アタシ連れて行きます!」

美月の肩を借りて教室から出ていく。

(ーー医者はね、患者の命を救う存在だよ。そんな立場の私たちがいつ倒れてもおかしくない状態じゃ話にならない。)

保健室へ向かう道中、何度も蒼空母の言葉がよみがえる。悔しさで歯を食いしばる紗雪を美月は心配そうに見つめる

〇保健室 次の授業開始のチャイムが鳴る
紗雪はベットに横たわり、美月はすぐ横で座っている。

紗雪「みっちゃん、次の授業が始まっちゃうよ?」
美月「いいのいいの~♪そんなことより聞きたいことがあって」

美月が自身のスマホ画面を紗雪の眼前に見せる。
画面には蒼空とのトーク履歴↓

蒼空「俺はもう紗雪と関わらない。美月くんが代わりに支えてやってほしい。よろしく頼む」
美月「なんで?どういうこと!?」
  「不在着信」
美月「おーい、蒼空くーん!」以降、すべて既読無視

美月「あの紗雪大好き男がこんな連絡するなんて異常事態すぎる。ずつまと様子が可笑しかったけど、そろそろ話してほしい。何があったの?」
紗雪「それは...」

紗雪の言葉を遮って保健室の扉が開く。

一瞬、蒼空が来たと期待したが、現れたのは大地
妙に深刻な表情をしている

紗雪「大地先輩...」
美月「先輩、サボリ?」
大地「まあね。ま、もう3年は授業出ても出なくても一緒だしねー。それよりコレ、蒼空から来たんだけど...」

大地もスマホ画面を2人に向かって見せる。
大地のスマホにも美月と同じ文面が蒼空から届いていた。

大地「アイツがこんな事言うはずないんだ。何があったの、紗雪ちゃん」
紗雪「...実は...」

紗雪が2人に事のあらましを話し終えた後

美月「紗雪の命の恩人が蒼空ママで、でも蒼空くんこそが紗雪が倒れた原因...ビックリだね。2人がそんな関係性だったなんて」
大地「それがアイツの異常な執着の理由、か...」

紗雪「わたしの医者になる夢は蒼空を罪悪感で縛り付ける。それに私の身体は医者になれる器じゃないって、高瀬先生にもハッキリ言われちゃったんだ。」
美月「そんな...!」

紗雪「私が自分の意志で医者になる夢を諦めれば、蒼空も本当の意味で私から解放されて蒼空自身のために生きられるかもしれない。そもそもさ、間違ってたんだよ。罪悪感から始まった恋なんて。だからきっと、それが1番いいんだよ。」
目に涙を浮かべながら
まるで自分に言い聞かせるように笑顔で言う

紗雪(それで、お互いの事なんて忘れて夢を見つけて、いつか誰かと恋をしてそれぞれ幸せになるんだ...それがきっと、わたしたちがお互いのためにできる最後の償いだから...)

美月「...わかんないじゃん」
紗雪「え」
美月「蒼空くんが解放されるかどうかなんて、わかんないじゃん。それは蒼空くんの問題なんだから」

美月の目にも涙が浮かんでいるが、真っ直ぐ紗雪を見つめて問う

美月「ねえ、紗雪は蒼空くんのこと今はどう思ってるの?だめなの?罪悪感から始まった関係だったら、紗雪はもう蒼空くんのこと嫌いなの?」
紗雪「ーーー違う!!」
考えるよりも早く、即答する

遅れて紗雪の見開かれた目から大粒の涙が溢れ出す

紗雪「っ...そんなわけ、ない...!!蒼空が嫌いなんて、あるはず、ない...!!」
(私は...蒼空が好き...)
美月「じゃあ、大丈夫。それを伝えてあげれば2人はきっと大丈夫だよ。」

美月は顔を覆いながら泣き始めてしまった紗雪を優しく抱きしめる。

大地「全く。紗雪ちゃんは頭いいのに変なところ鈍いよな。どう見てもアイツは紗雪にベタぼれだろ。」
紗雪「大地先輩...」

大地「それに身体が弱いから医者を目指すのが難しいなんてのは今さらだろ?」
紗雪「そうなんですけど...やっぱり憧れた人に言われると...」
大地「だからって目指すことすら辞めるのか?もったいないなあ、紗雪ちゃんはこんなに優秀なのにそんな親子のせいで諦めるなんて」

茶化すような言い方をしているが、紗雪の目をまっすぐ捉えて真剣な表情で言う。

美月「先輩、なんでそんなイヤな言い方するかな~」
大地「俺はべつに2人の仲を応援する気なんて全くないしな!」
美月「フラれた腹いせっしょ?」
大地「フラレてねえし、ハッキリとは」
美月「ダッサー」

軽快なやりとりをする2人のおかげで、紗雪の心のモヤモヤも晴れ、笑顔を取り戻す。

紗雪「...みっちゃん、大地先輩。本当にありがとう。
私、蒼空ともう1度ちゃんと話してみるね」

〇放課後 大地と美月と別れて1人で下校する紗雪 
蒼空に連絡しようとスマホを見ているがメッセージはまだ送れていない。

紗雪(蒼空とこのままの関係で終わるなんて絶対に嫌だ...でも、蒼空はまだ重い罪悪感を抱えてる。
私と蒼空の気持ちが同じでも、今の状態では私の想いをきっと受け取ってはくれない。
それに、今の夢を見失って迷っている私を蒼空はどう思うだろう?また彼を罪悪感で押し潰してしまうんじゃ...)

そんな考えを巡らせていると
目の前のコンビニから出てきたクラスメイトの女子と目が合う

紗雪が「じゃあ...」と軽く挨拶をして通りすぎようとすると、女子が声をかけてくる。

女子「増村さん!ちょっと話聞いてくれないかな?」

2人はコンビニの前で立ち話をすることになる。

女子「私、10才下の弟がいるんだけど、この前病気で入院したんだ。ほとんど親がお見舞い行って色々やってあげてるみたいなんだけど...なんか深刻そうで、怖くて病気の事も何も聞けてないんだよね。私にできることって何もないのかなあ?」
紗雪「...そうだね...」

口元に手を当ててしばらく考え込む紗雪に、女子が慌てて軽い調子で言う

女子「ごめんごめん!こんなこと聞かれても困るよね!気にしないで!」
紗雪「やっぱりまずは知ること、かな。弟さんの病気の症状とか詳しく知らないんだよね?」
女子「え、うん...」
紗雪「病気で1番怖いのは未知のウイルスや原因不明なもの。つまり、何も分からないままなことが最大の恐怖に繋がるんだよ。今怖くて不安なのもそうだと思う。」

女子「分からないことが最大の恐怖...」

紗雪「私は...医者じゃないから治す方法とかは伝えられないけど、病気そのものの事なら何か教えられるかも。ちなみに病名は聞いてる?」
女子「あ、一応。読み方難しくて...これなんだけど」
スマホで何かを紗雪に見せる
紗雪「あー、この病気の主な症状はね...」



女子「増村さん、いろいろ教えてくれてありがとう。弟が心配なのは変わんないけど、ちょっと気持ち落ち着いた。弟が少しでも元気になれるようにわたしに出来ること、探してみるね。」

先ほどよりも少しだけ表情が明るくなっている

紗雪「弟さん、早く治るといいね」
女子「文化祭の時も思ったけど、増村さんの知識量って半端ないよね。医者の勉強がんばってね!」

手を振って去っていくクラスメイトを見つめて
心臓が脈打ち胸が熱くなるのを感じる

紗雪(...わたしは身体が弱くて、非力な人間。でも今、私は私の培ってきた知識で、あの子の心から不安を取り除けた。...そうだ、私が医者になりたい理由はもう先生への憧れだけじゃない。私の様に自分の体質に苦しむ人や病気におびえて不安に暮らす人々を救えるような存在になりたい。

この気持ちは...蒼空を縛り付けるためのものなんかじゃない!誰の許しもいらない、私自身が見出した私の目指す道だ!!)

紗雪の瞳に光がともる。
すぐにスマホを取り出して、蒼空にメッセージを送る。

紗雪「明日、私たちが出会った日に行った公園に来て。」

既読はつくが、蒼空からの返信は来ない。

紗雪(まずは会って話をしなくちゃいけない。蒼空は今もきっと苦しんでる。夢は諦めない...でも、蒼空。
私が必ず、その罪悪感の檻の中から救い出してみせるから。)

蒼空に「待ってるから」とメッセージを送る
その目は強い決意に満ち溢れていた。