天才発明系男子の過保護な愛情〜病弱な私との歪んだ未来図


〇11話の続きのシーン 紗雪宅 リビング
母と机を挟んで2人向かい合っている
紗雪(わたしと蒼空があの入院の日に出会ってた...!?)

心臓がドクドクと脈打つ中、雪が降り、キラキラとしたイルミネーションが紗雪の脳裏をよぎる。

小さな男の子の「ねえ、どうしたの!?起きて!!」という叫び声も遠い記憶の中から聞こえてくる。


紗雪母「当時のあなたがもっと外に出て遊びたがってることは分かってた。」

母が再度語り出したことで、意識が現実に引き戻される。

紗雪母「でも、私はあなたの身体が心配でいつも図書館の中にいるように言っていた。そんなあなたをあの子は、近所の公園でやってるクリスマスマーケットに連れて行こうとしたの。
ただあの日は雪が降るほど寒くてそんな中走ったせいか、あなたは公園に着いてすぐに倒れた。息子さんを追いかけて来た高瀬先生が、すぐ公園にきて適切な処置をしてくれたおかげであなたは助かったの...」

紗雪「でも私...こんなに何も覚えてないなんて、おかしくない?」

紗雪母「高熱と呼吸困難でかなり危ない状態だったから、直前の記憶が曖昧になるのも無理ないそうだわ。目が覚めたあなたは「自分が勝手に1人で抜け出した」と思っていた。」

紗雪(そうだよ、だって何も覚えてないもん。あの時蒼空がいたなんて...)

覚えてないはずなのに、「ねえ、起きてよ!誰か...誰かきてー!!」という小さな男の子の声が頭の中でこだまする。

紗雪母「今まで黙ってて本当にごめんなさい...」

涙ぐみながらも母は言葉を続ける。

紗雪母「でも先生の息子さんも紗雪を連れ出したことをひどく後悔していたの。先生は私たち家族の命の恩人。子供たちのために親同士で退院後は関わらないことを約束して、学校区域が被らないように先生方は病院を畳んで隣町に引っ越してくれたの...」

涙を拭って大きなため息をつき、呟くように言う。

紗雪母「まさか、高校で再会するなんてね...」

紗雪が絶句していると、電話が鳴って母はリビングから退出する。

紗雪(私と蒼空は出会ってて...あの時倒れたのは蒼空が原因で...)

紗雪母「...紗雪。高瀬先生からお電話よ」
紗雪「え...」

不思議に思いながらも固定電話の受話器を受け取る

紗雪「...もしもし」
高瀬母「こんにちは、紗雪ちゃん。突然だけど、うちの病院で久々に診察しない?」
紗雪「...診察?」

※場面転換

〇大きな総合病院の中にある診察室
 紗雪と高瀬母の2人きり。
 紗雪の診察はすでに終わっている。

高瀬母「学校での蒼空はどんな様子?」
紗雪「...三者面談以降、ずっと避けられてます。」
高瀬母「だろうね」
特に顔色は変えないまま高瀬母は返答する

紗雪「母から聞きました。昔、蒼空が私を連れ出したことで先生の病院に入院したこと。先生と蒼空は...私が当時の女の子だって知ってたんでしょうか。」

蒼空母「わたしは全く。男子高校生ってのは学校のことなんてあんまり話してくれないもんだよ?...でも、あの子は途中から気付いてたみたい。問い詰めたら白状したよ。」

紗雪(...蒼空、知ってたんだ。一体、今までどんな気持ちで私と接してたんだろう)

蒼空母「あのバカ息子、わたしの使わなくなった医療器具を勝手に使って紗雪ちゃんに色々変なモノ押し付けてたみたいだね、ごめんね?」
紗雪「いえ、そんな...」
蒼空母「ったく、罪悪感でここまでの事するかな...」
紗雪「...罪悪感」
蒼空母の言葉にひっかかり、ポツリとつぶやく。
脳裏には蒼空が笑顔で発明品を渡してくる姿が浮かんだ

紗雪「蒼空は...わたしの夢を...医者になる夢を応援してくれてて...」
蒼空母「...当時のあの子の後悔は相当なものだった。嫌いだった勉強ばかりするようになって、なる気もなかっただろう医者を目指し出すくらい。蒼空の紗雪ちゃんに対する好意や応援は、おそらくそのほとんどが罪の意識からくるものだよ。」

紗雪の身体に衝撃が走る。
それと同時に、ひどく納得したような腑に落ちる感覚も得られた。

紗雪(そうだ、思い出した。蒼空がすごく過保護になりだしたのは高校1年の冬頃。
それは私が入院した時に憧れの女性医師ーー高瀬先生に出会った事を話した時だ。おそらくあれで蒼空は、私があの時の女の子だって気づいたんだ。)

紗雪の話を聞いて蒼空が目を見開き衝撃を受けている当時の様子を回想する

紗雪(あれから蒼空は、私と一緒に医者になる事に異常なほど執着するようになった)

蒼空母「紗雪ちゃんはまだ私に憧れてる?あの時、倒れた原因が私の息子だったと知っても?」
紗雪「...え...は、い...だって先生は、命の恩人、ですから」
本心だが、あまりに衝撃的な事実に言葉が詰まる。

蒼空母「...そう。」残念そうになぜか目を閉じる。

蒼空母「私もね、あの日急に家を飛び出した蒼空をすぐに見つけられなかったせいで紗雪ちゃんを危険にさらしたこと、本当に申し訳ないと思ってる。だからこそ、私はあなたにハッキリ言わなくちゃいけない」

蒼空母は紗雪のレントゲン画像をパソコンで表示する

蒼空母「診察の結果、知ってるだろうけど君はやっぱり身体が弱い。特に呼吸器官。このレントゲンを診て、同じ医者だと思う医者はいないね。」

紗雪は厳しい口調と言葉に息を詰まらせる。

蒼空母「紗雪ちゃん。医者はね、患者の命を救う存在だよ。そんな立場の私たちがいつ倒れてもおかしくない状態じゃ話にならない。...私のような医者になる夢は諦めるべきよ。」
紗雪「そんな...!!」
蒼空母「...今のが医者としての意見。」

口調が幾分柔らかくなり、蒼空母は言葉を続ける。

蒼空母「そして今からが、蒼空の親としての意見。紗雪ちゃんが医者の夢を諦めれば、あの子はおかしな使命感も消えて、ようやく罪悪感から解放されるかもしれない。やっと自分が本当に目指したい道を探し出せるかも。...どうか、あの子を解放してやってほしい。」

深く頭を下げる蒼空母に
紗雪はショックのあまり、何も言えないまま呆然と蒼空母の様子を見つめていた。


〇病院の帰り道 
紗雪が曇天の中で1人トボトボと歩いている。

紗雪(...なんで忘れてたんだろう。あの日クリスマスマーケットに行きたくて図書館から外を見ていたら、知らない男の子が声をかけてきて...)

※断片的な蒼空との思い出が回想される
小さい蒼空「いきたいんだろ?一緒に行こうぜ!」
図書館で手を引かれる

小さい蒼空「早く早く!すぐ混んじまうから!」
雪の中手を繋いで歩く。紗雪の息はかなり荒い

小さい蒼空「だれか!助けて!だれかー!!」
公園で紗雪が倒れたシーン

現在の蒼空「俺はずっと紗雪の夢を応援する。俺がずっと支えるからな」変な発明品持って微笑む蒼空

現在の蒼空「...俺、やっぱり紗雪が大好き」
第9話の文化祭終わりで抱擁したシーン

紗雪(全部、知ってたんだ。全部、罪滅ぼしだったんだ。私が医者になれるなんて本気で信じてくれてたわけじゃない、私は医者になれない...)

紗雪「蒼空のバカッ」

こらえていた涙が堰を切ったように一気にあふれ出す。