◯冒頭 あおり
雪が羽のように舞う中、制服を着た紗雪が1人ポツンとたたずんでいる後ろ姿
紗雪モノローグ【風が吹けば飛んでいく羽のように無力でままならない私の身体。それでも私は、幼い頃に憧れたこの夢を絶対に叶えたい】
蒼空「俺は紗雪の夢を叶えるためにここにいる。ずっと側で紗雪のサポートをする。それが俺の、俺に課せられた最大の使命だ。」
蒼空の不敵な笑みを浮かべた口元〜手元までのアップ。
紗雪モノローグ【この脆弱な身体に、あなたの愛は少し奇妙で過剰な献身だ】
振り返る紗雪と蒼空の優しい笑顔のアップ
第1話:「セコムなアイツ」
◯紗雪の回想 1年前の体育館
舞台の上で緊張した表情で立っている紗雪
司会者「ーー以上、新入生代表 増村紗雪さんからの挨拶でした。」
拍手の中、紗雪が一礼して壇上から降りようとしたところで目眩を起こし、足を踏み外して階段から落ちてしまう。騒然とする式場の中、倒れた紗雪は苦しそうな表情で目を閉じる
紗雪(...なんで私はこんな事も出来ないの...ああ、強くなりたい...)
〜回想終了〜
◯現在 4月の始業式。進級した紗雪の2年3組の教室。
周りがガヤガヤと騒がしい中、紗雪は自分の席で黙々と本を読んでいる。
美月「さーゆーき!」
紗雪を後ろからガバッと勢いよく抱きしめる
紗雪「みっちゃん!え、もしかして同じクラス?」
美月「そうだよーん、おなクラ〜!」
紗雪「え、うれし〜!よろしくねー!」
美月「マジこちらこそすぎ!」
2人で両手を繋いでブンブンと喜びの握手を交わす
美月「てか、朝から何読んで...あ、出た、難しい本!相変わらずだね」
紗雪「うん。すきま時間も無駄にできないからね。」
紗雪の手元には医学に関する本
談笑後、美月が窓の外で体育館に向かう新入生の列を見つける。紗雪は複雑な表情を浮かべながら新入生を見つめる。
美月「あ、今から入学式かあ。なついねー。そういえば紗雪は代表挨拶もやってたよね。さすがすぎ」
紗雪「...さすがでも何でもないよ。むしろ情けなかった」視線を落として暗い表情になる
美月「えー。でも挨拶自体はめっちゃ良かったし、あんなんプレッシャーやばすぎて誰でもしんどくなるって」
紗雪「でも、それで実際に倒れるのなんて私くらいだろうし...こんなんじゃ...」
紗雪(医者になんてなれない)
紗雪モノローグ【私は身体が弱い。小さい頃からすぐに熱を出すし目眩を起こして倒れていた。ーーーでも、だからかもしれない。昔、入院した病院で出会ったとても優しい女性のお医者さん。彼女は優しいだけでなく、他の看護師にもテキパキと指示をしていて、その姿がとてもかっこよかった。
小さな紗雪がベッドに寝ながら、女医さんの働く姿を見つめている。それに気付いた女医が、紗雪の頭をポンと撫でて優しく微笑みかける。
憧れの女医「大丈夫だよ、紗雪ちゃん。きっとすぐに良くなって退院できるからね?」
小さな紗雪(わたしも大きくなったら、こんな風に素敵なお医者さんになりたい...!!」恋に落ちたようにキラキラした目になる。
紗雪モノローグ【それからの私は、あの女医さんのような医者を目指して日々勉強を頑張っている。たしかに今も身体は弱いままだけど、一歩でも夢に近づけるように毎日努力の日々だ。】
弱音を断ち切るように首を振る
紗雪「ううん、過ぎた事で悩んでもしょうがないよね。前進あるのみだわ!」
美月「よっ!その意気だ、紗雪!」
紗雪「2年生はより一層、勉強に励んで...必ず医者になってみせるわ!」
蒼空「ーーーうんうん、それでこそ紗雪だな」
紗雪の背中にぞくっと寒気が走る。驚いて後ろを振り返ると、蒼空は紗雪の背後(めっちゃ至近距離)で腕を組んで感心したように頷いている。
紗雪「ーーー蒼空!?」
蒼空「よっ♪喜べ、紗雪。今年は同じクラスだぞ」
紗雪「えええっ!?」
蒼空「ーーお、紗雪の友達か」
美月「どうもどうも〜美月でーす、よろ〜」
蒼空「...これはどうも。俺は」
一瞬、品定めするような鋭い目つきをした後、
ニッコリと笑顔を美月に向ける
美月「知ってるよ、高瀬蒼空くんでしょ?有名だもん、紗雪の専属セコム男子って」
紗雪モノローグ【高瀬蒼空。蒼空とは高校1年の時、同じ医者志望な事を偶然知ったのがきっかけで、クラスは別々だったものの仲良くなった。】
蒼空が落とした医学部希望者向けのパンフレットを紗雪が拾ったのがキッカケ
紗雪モノローグ【同じ医者という夢を追う仲間として過ごし、私の身体の弱さもずっと気にかけていてくれた。そうやって気にかけて、心配して心配して...気がついた時には周囲も私も引くようなとんでもない過保護っぷりを発揮するように。】
1年生の時に2人がテストの点を競い合う姿
蒼空が紗雪を保健室に連れて行ったり「寒くない?」と言って膝掛けを持ってきてくれたりする普通の優しさ
→職員室で「紗雪にだけエレベーター使用許可を」と先生に直談判
紗雪のために下校時にタクシー横付けし出すように変化
紗雪モノローグ【いつのまにやら学校公認のわたし専用セコム扱いだ。蒼空にそんなふうに接せられるのも周りにそんな目で見られ続けるのもしんどくて、距離を置きたいなって思い始めていたんだけど...まさか今年は同じクラスになるなんて..!】
「紗雪ー!」と付き纏う蒼空から隠れてげんなりしている紗雪の回想絵
蒼空「俺はただ紗雪と一緒に医者になるために、紗雪の体力面・精神面などありとあらゆる面からサポートと管理をしていきたいだけだ。な、紗雪?俺たちは一緒に医者になるんだもんな?」
紗雪にニッコリと笑いかけるが、その目の下にはうっすらと影が落ちて不気味さが漂う。
紗雪「いや、できればそっとしていてほしい...」
(1年の時から何も変わってない...相変わらずだ)
蒼空「2年になった俺は去年とはひとあじ違うぞ。まずは手始めに、これだ。」
紗雪が呆れているのも構わず、蒼空は意気揚々とカバンから腕時計のようなものを取り出す。
紗雪「...何これ?」
蒼空「つけてみてくれ」
蒼空の顔を窺いながらおそるおそる腕にそれをつけた紗雪。ピーっと甲高い音が鳴る。
『生体情報、確認。脈拍が早い。極度の緊張状態を把握いたしました。直ちに心身が安全な場所へと誘導するべし。繰り返す...』
腕時計から音声が流れる
紗雪「...何これ?」
蒼空「俺が作った。その名もバイタルチェックウォッチだ!これを付ければ紗雪の健康状態の異常を素早く検知して俺のアプリに通知が届くようになっている。」
紗雪「え、こわっ」
蒼空「紗雪、何か動揺しているのか?体調が悪いなら、他にも俺の作った作品を試してーー」
紗雪「誰のせいだー!こんなの付けないから!」
勢いよく腕時計をスポッと腕から抜く
蒼空「ああ!ちゃんとロック機能もかけたのに!紗雪の手首の細さを見誤ったか!」
紗雪「何なのこれ!何でこんなの作ってんの!?ていうか何で作れるの!?怖いんだけど」
蒼空「ふっ...俺はこの春休み中、谷尾くん(蒼空の友人。センター分けメガネくん)のツテで技術部に入部した。」
紗雪「技術部...?なんで?」
蒼空「全ては紗雪!君が、より医者を目指すのに最適かつ最善な環境・肉体を得られるようになるため!そのために俺は毎日試作品作りに明け暮れた!その成果を今、試す時だ!俺が必ず君を立派な医者にしてみせる!これから楽しみにしていてくれ、紗雪!」
不気味な笑顔の蒼空と、ドン引きで怯え顔の紗雪。
紗雪モノローグ【高校2年生の春。それはさらなる夢への想いを胸に、過保護な同級生が作り出した奇妙な発明品とともに始まったのでした】
