「なるほど丈夫な靴裏だ。踏みやすい」
革靴の甲を思いっきり踏まれぐりっとひねられた同期は痛みで声も出ないらしい。今日、試着した新作のスニーカー、最高だね。
「痴漢対策にも良いですねって明日メーカーさんに言っとこ」
「……っ、
な、なんなんだよ……」
「交番行く?」
「勘弁してよ……」
足の甲だけではなく頭も痛くなったのか、彼が右手でこめかみを押さえて眉間に深いシワを寄せる。

「きみのおごりだろうな。今夜」

「チッ」と言う小さな舌打ちが聞こえた。お? やるか?

「おともしますよ。上海」

彼がぬぼう、と立ち上がった。こういう妖怪いるよね。
「上海行く予定ないけど、年末ソロワンマンが渋谷である」
「おともしますよ。どこへでも」
私はにっこり笑って彼の右腕に自分の腕をからめた。
「きみの推し元気?」
「おかげさまで」
「良かった」

今度いっしょにミュージカル観に行こうね、とはまだ言わない。うちの推しがもともとミュージカル俳優で、ちょくちょくアンサンブルとしてミュージカルに出演していることも。

「で、来る? うち」