10月。
秋だしそろそろ運動でもはじめよっか、とか、夏のむくみをとったりアイスやジュース太りを解消したい、と言うニーズが増えてシューズやウエアが飛ぶように売れる。
私たちは営業部員なので商品を売るためにまず自分で試着してみる。今日は製造メーカーの方々が来て、プロの営業の意見を聞きつつ販売戦略も確認する。外資系のメーカーから日本人ふたり、中国人ひとり、インド人ひとりがきた。

例の同期が赤いウォーキングシューズを履いて(推しカラー)オフィス内を歩きまわる。そして英語で感想を言う。私はそれを日本語に通訳する。私の脇には中国語のたんのうな日本人スタッフがいて同じく通訳を担当する。撮影もする。
「足首が疲れません。ソールが足裏にフィットして。そして軽いですね。靴裏がこんなに薄いのに、中がしっかり作られているので、万が一小石などを踏んでも衝撃が小さそうです」

私もとなりにいるスタッフも同じメーカーの新作シューズを履いている。私のは白(推しカラー)。
「縫い目もしっかりそろっているし目立ちません。靴ひももカラバリがあってカスタム好きにはたまりませんね」
彼が軽く飛び跳ねる。うん、軽い。足首への締め付けもないし、靴ひもはあくまで飾りだからなくても履けるしおしゃれ。
「シューズの色と靴ひもの色で推しカプも作れる」
「どう言う需要?」
「二次創作でそう言うのかいてるひと用」
「ふむ」
そう言う使い方もあるのか。ひとつ勉強になった。

「推し活は隠したいけど推しカラーは持ち歩きたい。
またはわかる者同士だけでわかりあいたいってひとも多いですからね」
「最近、イン*タで映えってあまり流行らないのですが、ストーリー機能で写真共有するひとが多いですよね。芸能人もそうしてますし」
「ツイ*ターではまだまだ写真投稿多いですよ。オタクはたいてい*イッターにいます」
「カスタムがかんたんなら個性を出したり、ふたごコーデや親子コーデしたりも楽しそうですね」

同期と私がまず英語で話し、そしてそのまま日本語に訳す。メーカーの方々はスマートフォンで撮影をしながら何かを話している。
「もう少し大きな動きをして感想を言っていただけませんか」
メーカーさんの日本人のひとがそう言った。同期がチラ、と私を見た。

私は、同期を狙って回し蹴りを繰り出した。同期はすっと横に避けた。
「蹴りやすいです」
「避けやすいです」
「そうじゃない」

中国語の通訳をしていたスタッフが、表情ひとつ変えずそう言った。
「スーツなのでダンス技は難しいです」
「そう言うことでもない」
「ロックダンスならいけるんじゃない?」

営業の仕事はたくさんある。そして、私は営業の仕事が嫌いではない。(ブラック企業は嫌い)