「ただいま」

 愛子が帰ってきた時、全員夕飯を食べ終わっていた。結と星は風呂に入り、月は食べ終わった分の食器を洗っていた。

「おかえり、愛子。ご飯一応残してるけど――」

 久史が玄関まで愛子を出迎えるとその両手には大量の食べ物が入った買い物袋がぶら下がっていた。

「私もういらないから、ラップして冷蔵庫入れといて! お腹空いたら食べるから」

 そう言いながら急いで階段を上がって行った。その背中に「分かった」と答えたが聞いていたのかいないのか、返答はなかった。
 キッチンにいた月は背中でその会話を聞いていた。そこへ久史がやってくる。

「ラップどこだったかな」
「そこの棚に」
「ああ、ありがとう」

 どうやら愛子が言った通りラップして冷蔵庫に入れてくれるらしい。

「俺やっときますよ」

 月と星は元々有明家の人間ではなかった。養子縁組を結んで家族になっても敬語が抜けない。星のようにため口で話せたらいいのだが。

「いいよ、これくらい出来るから。子どもたちばかりに任せていたら、父親のメンツが立たないだろ?」
「すみません、ありがとうございます」
「月が謝ることでも、礼を言うことでもないよ」

 ラップを持っていない手で月の背中をポンポンと軽く叩いてから、居間へ向かった。自分よりも小さな背中が大きく見えた。