「何や、まだ連絡してないんか?」
「まぁ」
今日も放課後大学院へ入り浸っていた。優人としてはそろそろ帰ってほしいと思っていたが、朝陽の口から「母親に連絡出来ていない」と訊いたので気になった。
「何で?」
「何でって……何年ぶりだと思ってんの?」
「元気にしてるで?」
この男は――。
「優人は母さんと関わりがあったのかもしれないけど、私は全くなかったの! 何で分かんないかなぁ~、この複雑さが」
「へ~。複雑なんや」
「そりゃそうでしょ」
「俺に愛子さんと結婚しろとか結の父親になれって言ってた人が? 複雑なん?」
「そんなこと言ってないでしょ」
「言ってたわ。間接的に」
「間接的じゃん。直接じゃないじゃん」
「でも、そういう意味合いのことを言われたから俺ら結婚したんやで?」
「それとこれとは話が違うじゃん」
「どっちも家族の問題やろ」
さすがに勝敗は優人のものだった。朝陽は黙る。
「しづらいんやったら、俺から連絡したろか?」
「絶対にやめて」
「じゃあ、自分でするんやな?」
「……まぁ」
「何やねん。煮え切らんなぁ」
そんなに簡単に決められることならもうとっくにやっている。優人から美空の連絡先を教えてもらったのは、もう半月も前なのだから。この半月間ずっと母親のことで頭を悩ませている、ということにもなるが。
「あ、おじさんに言ったら?」
「父さんに?」
「連絡取ってるんちゃう?」
その可能性があったか――と一瞬思って、考えを改める。
「……取ってないでしょ」
「何で? 別に離婚したわけやないやん」
「そうだけど……でも、出てってるんだし、連絡取りづらくない? 普通は取らないよ」
「そう言ってんの?」
「え?」
「おじさんが連絡取ってないって言ってんの?」
「言って、ない、けど……」
「じゃあ聞いてみんと分からんやん」
そう言われたらそうだが、実際に二人が連絡を取ってた場合を考えるとやっぱり複雑だった――除け者にされたような気分だ。
「母さんは何か言ってないの?」
「なーんも」
「使えねぇ」
「何でや! 連絡先教えたやん! バイトリーダー並に使えるわ!」
「中途半端だなぁ。せめて店長ぐらい使えないと」
「バイトリーダーに謝れ!」
「そっちがね」
今度は朝陽に軍配が上がる。バイトリーダーを先に出したのは優人だ。
「まぁ、ええわ。こっちからも美空さんに言うとくわ」
「何を?」
「朝陽が連絡したがってるよって」
「本当にやめて」
「でも、実際会いたいやろ?」
「会いたくないことはないけど……どんな顔していいか分かんないよ」
「普通の顔でいいやん。整形とかやめや? あ、こういうこと言うたらあかんのか」
「そういう意味じゃないし、ノンデリだし」
「整形を批判してるんちゃうで? ただ、朝陽は朝陽のままでええって言ってんねんで?」
「分かってるから」
朝陽はよけいうなだれた。机に突っ伏す。
母親に会えるなら会いたいが、それと相反する感情がせめぎ合っている。
誰か背中を押してほしい。マイナスな感情を打破してくれるような、きっかけがほしかった。
