風呂から出て髪を乾かしてもらう。いつもは居間だが、今日は朝陽の部屋で乾かしてもらっていた――話したいことがあったから。
「乾いたよ」
月がドライヤーを止めて、そう教えてくれる。
「ありがとう」
「うん」
今度はくしで髪をとかす。いつもの朝陽の髪に戻り、月も満足した。
「何で優人君の家に行ったの?」
プチ家出についての詳細は話していなかった。
「……ちょっと」
月に髪を乾かしてもらいたくなかったから、とはさすがに言えなかった。
「そっか。無事に帰って来てくれてよかった」
くしで髪をとかし終えると、バッグハグされる。朝陽は驚きながらも抵抗はしなかった。
「朝陽」
「……何?」
「教えてほしい。何で俺じゃダメなのか」
もしかしたら、月は憶えていないのかもしれない。あの日のあの言葉を――。
「言ってたでしょ。ご両親が離婚した時……もう家族はいらないって」
「え?」
「だから、月は結婚しないんだって思ってた――月と結婚しちゃいけないんだって思ってた」
月が黙る。そっと横顔を覗き込むと、考え込んでいるような顔をしていた。
「でも、その後、朝陽が言ってくれたでしょ?」
「え?」
あの時は、そこで話が終わったはず――。
「有明家のみんながいるよって。俺の両親は離婚して離れ離れになるかもしれないけど、朝陽たちがこれから新しく家族になるから、家族に対して悪いイメージを持たないでほしいって」
「そんなこと言った?」
「言ってたよ」
「証拠は?」
「ないけど……でも、俺が憶えてるから本当に言ってた」
自分が言った言葉を憶えていないことがあるのだろうか。でも、そう言われたら言ったような気もしてくる。
「――じゃあ、結婚出来るの?」
「ずっとそうしたいって言ってるでしょ」
月が強く朝陽を抱きしめる。朝陽も振り返って、月を強く抱きしめ返した。
「――美華子の結婚式、行く?」
「うん、行く」
久しぶりに朝陽の笑顔が見られて、月は大満足した。
