「ただいま――わっ!」

 二人で家に帰ると、久史が玄関に張りついていた。思わず愛子が驚きの声をあげる。結と星も玄関まで走って来た。

「朝陽、どこ行ってたんだ?」

 久史が訊くが朝陽は答えず、愛子が割って入る。

「いいじゃない、父さん。帰って来たんだから」
「いや――」
「おかえり、朝陽ちゃん! ほら、星も」
「うん。おかえり」

 久史は納得がいっていなかったが、結と星が後押しをする。
 だが、何か物足りない。

「――月は?」
「ああ、月も探しに行くって、愛子が出て行った後、月も出て行って。もう帰って来たって連絡するか」

 久史は何かあった時用に、すぐに連絡出来るようにとガラケーを手に持っており、月に連絡を入れた。

「帰って来るって」

 電話を終えると、そう告げる。被せるように朝陽が問うた。

「どこにいるって?」
「さあ? 近くにいるみたいだけど」
「近く……」
「すぐに帰って来るわよ」

 朝陽がうつむく。愛子が安心させるように、肩を抱いた。

「朝陽!!」

 月の声が聞こえて、振り返る。息の上がった月が両膝に両手をつきながら立っていた。

「月……」

 愛子に背中を押される。

「行っておいで。ちゃんと話さなきゃ。何かあったら呼んで」

 頷いてから、月に近寄って行った。愛子はそんな二人を背に、久史や子どもたちに声をかけ、居間まで戻った。
 月はまだ息が上がっている。猛ダッシュで帰って来たのは分かっていた。自分がしたことを後悔する。

「……ごめん」
「ううん」

 月はかぶりを振りながら顔を上げた。やっと息が整ったようだ。

「愛子ちゃんと帰って来たの?」
「うん」
「すごいな。俺、朝陽がどこにいるのか分からなかった。ちょっと悔しい」

 月は朝陽を探しに行ったのはいいものの、どこにいるのか見当もつかず、近場をぐるぐる回っていただけだった。

「優人の家に行ってて。優人から姉さんに連絡が行っただけ。姉さんが探し当てたわけじゃないよ」
「そっか。でも、優人君の家知らないから。どっちにしろ分かんなかった」

 眉尻を下げながら笑う。

「寒いでしょ。中に入ろう」
「……うん」

 冷たい手が朝陽の手を取る。この手に何度髪を乾かしてもらったんだろう。なのに、今日は拒絶していた――。

「お風呂、入る」
「え?」
「出たら、また、髪……乾かしてほしい」

 月の手が朝陽の髪に触れる。いつもとは違うシャンプーの香りがする。指どおりも違う。優人の家で風呂に入ったのが分かった。

「……もちろん」

 それでも何も言わなかった――訊かなかった。

「体調は大丈夫?」
「うん」
「ご飯は?」
「ちょっと食べた」
「そっか」

 玄関に向かう間、かけられる言葉は心配ばかり。ずっと、心配かけてばかり。

「何でそんなに心配してるの。私もういい大人だけど」
「何でって――」

 その言葉の先を待っていた――その言葉を待っていた。

「好きだからだよ」