月と久史で話し合い、明日一緒に月の実家へ行くことになった。久史はかなり憤っており、説教をしてやると寝る直前まで息巻いていた。
 朝陽は気になって眠れず、月の部屋の前に来て、ノックをしようとしてはやめるというのを繰り返していた。声をかけずに寝てしまおうかと自室に戻ることも考えたが、やっぱり気になる。六回目にやっと決心がついて、ノックをした――返答はない。
 そっと、扉を開けて中を確認すると、誰もいなかった。どこにいるのだろう――考えて、一つ思いついた。
 朝陽は一階に下り、縁側まで行くと、そこに月はいた。あの日の晩と同じように月を見上げている。朝陽は声をかけることもなく、その隣に寄り添った。
 三日月が悠然と輝いている。

「何でなんだろう」

 月がおもむろに呟いた。朝陽はその横顔を見上げた。

「何で俺の親はこんなに情けない人だったんだろう。何で俺はそんなことにさえ気づけなかったんだろう――いや、違うな。知ってたけど、見て見ぬふりをしてた。親に失望したくなかったのかもしれない。とにかく見て見ぬふりをしたのは事実なんだ。でも、どうしていいか分からなかったのも事実。どうしていいか分かっていたとしても実行は出来なかったと思う」

 それは自分の無力さを嘆いていた。

「昔はもっと幸せだった。少なくとも不妊治療を始める前までは。俺が男じゃなくて女だったら、不妊治療しなくて済んだのかな」

 それは嘲笑だった。

「一番大切な人たちに、一番大切なものを壊されるのってこんなにつらいんだな」

 それは後悔だった。
 朝陽は何も言えず、月の言葉を聞きながら寄り添うことしか出来なかった。
 月は淡々と続ける。悲しみを訴えているはずなのに、涙を流すこともなく、ただ、淡々と。

「どうせいつか壊れるものなら――」

 その先の言葉は今後朝陽を苦しめることになる。

「――俺はもう、家族なんていらない」