「妊娠した」
桜が散り、葉が青々と茂り、夏の気配を感じ始めたその日、夕飯の時間は、有明家次女――朝陽の言葉によって凍りついた。
家族全員が絶句しながらその朝陽を見ている。「じゃ」とそれだけ言って夕飯も食べずに立ち去ろうとすると、時計の針が動き出したかのように全員が口を開く。
「ま、待って待って! 朝陽!」
有明家父――久史は箸を置いて慌てて立ち上がり、
「ちょっと! どういうこと!?」
有明家長女――愛子も同じように立ち上がって朝陽を追う。
「にんしんって赤ちゃんが出来たってことだよね?」
「朝陽ちゃん、結婚してたっけ?」
愛子の子どもである結と有明家三女の星も顔を見合わせる。
ただ一人、有明家長男――月だけは、視線で朝陽の姿を追うだけだった。
