Side ローランド

自分の部屋に戻られたターシャお嬢様は真っ先に自分の寝台に眠るエレーナ様を見た。

痛ましそうに、青い顔で彼女はそっと、エレーナ様に触れた。
奥様やオリバーお嬢様なら汚いといって触れもしないだろう。

「ローランド、アリーは?」

「今、薬とタオルを取りに行っております。」

「エレーナの着替えは?」

その言葉に何と答えていいか分からなかった。

エレーナ様の服は正直、使用人にも劣る服以外持っていない。
旦那様は亡くなるまで、遺されたものが苦労しないように常にお金が入るように投資され、そして潤沢に生活のできる資金を手に入れている。

旦那様が残した遺産は毎月分配制で、奥様は生涯、お嬢様方には結婚するまでの十分な額が渡されている。もちろん、屋敷の維持費とは別に、だ。

そして、エレーナ様のお金は奥様とオリバーお嬢様のドレスとなっている事実をこの小さな貴婦人に伝えるべきか悩んだ。

「……お母様。」

その沈黙で察したのか、ターシャお嬢様は忌々しいものを見るかのように窓に視線を向けた。ターシャお嬢様は毎月の分配金をご自分で管理している。

すぐに思い当たったのであろう。

「お母様は間違っているわ。恨むべきはお父様と、エレーナの母であって、エレーナじゃないわ。」

「どちらも死んでるからできないでしょうけど」、そんな小さな言葉が耳に届いた。ターシャお嬢様は歩いて、クローゼットルームに向かった。

そして自分の服を持って戻ってきたのだ。就寝用のネグリジェだった。

「とりあえず私の服を着せなさい。これなら背中が開くから傷を癒すのにいいでしょう。あと、私の分配金からエレーナの服を作りなさい。いつも余らせているから余剰金はあるでしょう。全部使っても構わないからエレーナに必要なものを用意なさい。」

ターシャお嬢様から渡されたネグリジェは亡くなった御父上、オクレール公爵からプレゼントされて、彼女がとても大切にしているモノだと知っている。

しかし、傷を癒しやすいようにそれを差し出す姿に、自分の見る目のなさを嘆きたくなった。

分かっていたではないか、ターシャお嬢様は聡明で、自分の事はしっかり管理なさっていたではないか!

エレーナ様だけでなく、彼女もまた、心を傷つけていたのだ。
自分の無力さに泣きたくなったが、今はソレをしない。
先ほどのターシャお嬢様の言葉は亡き旦那様を思い出させるような言葉だったとは言えずに彼女の指示通りにメイドにエレーナ様を着替えさせた。