Side ターシャ
やると思った、って気持ち半分。
やらないで欲しい、って気持ち半分だった。
ダンス中にちらりと視界に入ったお母様とお姉様の顔で嫌な予感がしていた。
ダンスが終わると同時にやっぱりお母様が淑女らしからぬ歩き方でエレーナの方に向かう。
エレーナはその様子に、諦めたように目を瞑った。
ダメ。
そう思った瞬間、はしたないかもしれないけど走り出した。そしてお母様が扇ごと振り上げた手がエレーナに着く前にその間に割り込んだ。
バチッン。と予想以上に大きな音が響いた。
そして口の中では鉄の味が広がる。エレーナはこんな暴力、毎日のように耐えていたんだな、なんて心の隅で思った。
「ターシャ嬢!!」
静まり返ったホールで響いたのは先ほどまで優しい声を掛けてくれていた第二王子だろう。
痛いな、なんて思いながら、くるりドレスを揺らしながら後ろを向いた。
そこにはエレーナを守ろうと抱きしめてくれていた第一王子。
「おね、お姉様ぁ。」
ポロ、ポロっとエレーナの目から耐えられないように涙がこぼれた。
その様子にポケットからハンカチを出して目尻を抑えた。
「ダメよ、エレーナ。せっかくロジェのお婆様が綺麗にメイクしてくれたのよ。泣くなんてもったいないわ。」
そのまま第一王子に向かってカーテシーを披露する。
「第一王子殿下、申し訳ございません、妹は気分が悪いらしいのでバルコニーにでも案内していただけないでしょうか?」
暗に妹を連れ出してくれない?と伝えれば、意図が伝わったのか、第一王子はエレーナから離れて、そしてエスコートするために手を差し出した。
エレーナは不安げな顔をしたが、笑いかければ彼女はぐっと涙をこらえるように笑った。
「行こうか、エレーナ嬢。」
そのエスコートに応えたエレーナはこの場所から離れていく。
そして今度は反対側のわなわなと怒りで震えているお母様に向き直った。
パッと扇を開いて口元を隠した。
「さて、お母様。なにをなさっているのですか?」
「ターシャ!お前もエレーナに毒されたのか!母親に似て浅ましい女に!」
「はあ、お母様。浅ましいのは貴女ですわ。」
誰もが息を呑む中、はっきりと言い切れば、お母様はまた怒りで震える。
まず、話すときに扇を使っていない時点で母は淑女として失格だ。
「もうこれ以上は限界ですわね。お母様はご病気です。領地で静養なさる方が良いですわ。もちろん、お姉様もご一緒に」
「何を言っているのターシャ!!」
今度、怒鳴り声をあげたのはお姉様だった。
これ以上、オクレール公爵家の恥部を見せ続けるのは得策ではない。
静養、と言葉ではいったが、二人には修道院に行ってもらうつもりでいた。
「ご安心くださいませ、お母様、お姉様。私が婿を取りましてオクレール公爵家の家督は存続させます。バランド前公爵と、その話はまとまっておりますので。」
その言葉に反応したのはバランドのお爺様だった。
そしてお母様、お姉様を身内とは思えないような視線見ながら歩み出てきた。
「もはやオクレール公爵夫人、オクレール公爵令嬢オリバー。二人に貴族の義務は果たせまい。幸いなことにターシャもエレーナも優秀だ。姉であるターシャはオクレール公爵を継がせ、妹のエレーナには貴族の子女としての結婚をしてもらえばオクレール公爵家は安泰だ。お前たちは安心して『静養』するがいい。」
その言葉に反応したのはお母様だった。
青ざめて「嘘よ、嘘」と呪文のように呟いていた。
お爺様がそのような言葉を吐くとは思わなかったのだろう。
「ターシャじゃ無理よ!!誰も相手にしっこない!!私が婿を取ってオクレール公爵家を継ぐわ!!」
お姉様が勝ち誇ったような表情でそう宣言した。
残念ながらお姉様が嫁ぎ先を探して行き遅れていることは周知の事実。
公爵家の肩書という旨味があってもまともな子息は飛びつかないだろうな、と思っていた。
「なら、手っ取り早い方法を提案しようか。」
突然、第三者の声が響いた。
オクレール公爵家のバカ騒ぎにくぎ付けだった。
その中で声を上げた勇者は第二王子だった。
「なんで妾腹の王子が出てくるのよ!!」
「お姉様!!」
思わず怒鳴った。
妾腹など、言っていい言葉ではない。
それに王妃様は第二王子を実の息子並みに愛情を注いでいる。
王妃様の様子を盗み見れば怒り心頭といった感じだった。
怒った顔がお母様そっくりだ。
「妾腹で結構。事実だからね。でも僕は間違いなくステファン・オーウェン。オーウェン王国の第二王子。君よりも遥かに身分は高い。その僕に対する侮辱罪で君を拘束することもできるのだよ?」
ニコッと笑った第二王子の綺麗な笑顔に背筋が寒くなった。第二王子はそのまま言葉を続けた。
「ターシャ嬢が誰にも相手にされないといっていたけれども、君よりも遥かにターシャ嬢の方が魅力的だし、ターシャ嬢と結婚して公爵になれるなら立候補も多いはずだよ。」
そう言いながら第二王子はこちらを見て微笑んだ。
どこか優しいその視線にどうしていいのか分からなくなって視線をそらした。
「さて、ここからは僕の提案です。ターシャ嬢、僕は兄上に王子が生まれた時点で王位継承権を破棄するつもりでいる。父上と兄上とその後は新規で公爵家を起こす話をしていたのだが」
そこで第二王子は口に綺麗な弧を描いた。
その自信に満ち溢れた表情は王族にふさわしいものだ。
「今、ここに公爵家を存続させるために婿を取ろうとしている令嬢がいる。僕がオクレール公爵家に婿に入って存続させる。家格も申し分ないし、どうかな?」
「……とても、合理的な案ですね。」
言葉が悪いかもしれないが、全て丸く収まる案だと思った。
バランドのお爺様に視線を向ければ、お爺様も満足そうに頷いていた。
その怒涛の流れにお母様もお姉様も呆然としていた。
「ステファン!良い案ではないか!!」
場の空気を変えるような明るい声。
その声の主が国王様だと気づいた時には周りの視線がそちらに移った。
そして国王は王妃様に視線を移し、それに対して王妃様も満足そうに笑った。
「王命として発する。オクレール公爵家に婿入りさせる形でステファン第二王子を臣籍降下させる。伴侶としてオクレール公爵家令嬢、ターシャ嬢を指名する」
その言葉の後に王妃様は扇を開いた。
続けて王妃様の言葉が続くだろうから皆、静まり返ったままだった。
「これはめでたいことですわ。我が姪と、我が息子が家族となることは、我が息子が本当の意味で親戚なるということです。これは非常に嬉しく、そしてめでたいですわ。我が妹、オクレール公爵夫人、並びに我が姪、オクレール公爵令嬢は安心して、静養地に行くとよいですわ。」
つまるところ、さっさとここから出てけ、さもなくばもっと酷い目にあうぞ。と暗に言っているみたいだけど、残念ながらお母様もお姉様も意味が通じてなくて反論しだした。
国王が呆れながら手を上げれば、衛兵らしき人間にお母様もお姉様も連れていかれた。
めちゃくちゃ叫んでいたけれども、どうしようもないよな、ともう他人事で思っていた。
「ステファンよ。オクレール公爵令嬢ターシャと共に王太子アレックスの御代に貢献せよ。」
あ、王命ってことは私の結婚相手この人決定なんだ。
他人事のように思いつつ、王の言葉にカーテシーを返した。
隣で第二王子も同じように頭を下げている。
ちょっと待って、私まだ14歳。結婚とかはやすぎやしませんか?
「安心して、成人までは待つから。」
「それは有難い話ですが……私、口に出ていました?」
「いや、そんな顔をしていただけだよ、ターシャ嬢。さて、この騒ぎを収めるためにも僕たちも出ようか?」
そう言いながら第二王子は手を差し出した。
つまるところ、エスコートしてくれるということだ。
その手を取って、退出口に向かう。誰もが道を開けていき、しまっていたドアが衛兵によって開かれた。
第二王子がエスコートしつつ、くるりとホールに向き直り、そしてカーテシーとお辞儀を同時にして、そしてホールを後にした。
パタン、と閉まった扉の音に、脚の力が抜けそうになった。
「ターシャ嬢、大丈夫かい?」
「大丈夫、と言いたいのですが、すみません、大丈夫ではありません。」
立っているだけ偉い!と自分で褒めたくなるほど足が震えている。
私の様子に第二王子は柔らかく笑った。
次の瞬間、軽々と持ち上げられた。
これは、お姫様抱っこ、だと気づくのに間が出来てしまった。
「とりあえず、お話ししようか、ターシャ嬢。……他人行儀だしターシャで構わないかな?」
「あ、ご自由のどうぞ。あと、ありがとうございます。」
重いだろうとかは思わない。
だってまだ成長期で全然お肉がついてないもの。
はっきりと言えば幼児体系なのだ。
め上な思考をしていたら、連れてこられたのは王族用の休憩室だった。
ファに降ろされて、第二王子はメイドに何か指示をしていた。
メイドが慌ただしく戻ってくれば、第二王子はそれを受け取ってからソファの隣に腰かけた。
「あの、助けていただいて、ありがとうございます。あと、我が家のごたごたに巻き込んでしまって申し訳ございません」
これは素直な気持ちだった。
よりにもよってこんな子供を押し付けられてしまったのだ、第二王子も災難としか言いようがない。
「巻き込まれたのは自分の意志だから気にしなくていいよ、ターシャ。」
そう言いながら第二王子はタオルを私の頬に当てた。
ひんやりとしたそのタオルで頬を殴られた事実を思い出した。
「腫れているね。痛い?」
その言葉に首を横に振った。痛みは麻痺しているようであまり感じない。
第二王子は痛ましそうな目で私の顔を見ていた。
「明日に痛みが来るかもね。とりあえず冷やしておくだけでも違うよ」
「まあ、自業自得ですし、それよりもエレーナが傷つかずに済んでよかったです。
あ、第二王子殿下、今のうちに色々決めたいのですが、よろしいですか?」
「第二王子殿下は他人行儀だからステファンでいいよ、ターシャ。」
「あ、はい分かりましたステファン様。」
迷い無く呼んでみれば、第二王子もといステファン様は少し困った顔をしていた。
まぁ、多くは気にするべきではないな、と勝手に納得した。
とりあえず、結婚するにしたて私は母親の悲劇を繰り返したくはない。
だから、先に決めることを決めておかないとなのだ。
「あ、まずはなのですが、もし愛人との子供を作られるなら最低限、私との子供ができてからでお願いします」
私の言葉にステファン様は、笑顔が凍り付いたような表情のまましばらく動かなくなった。
やると思った、って気持ち半分。
やらないで欲しい、って気持ち半分だった。
ダンス中にちらりと視界に入ったお母様とお姉様の顔で嫌な予感がしていた。
ダンスが終わると同時にやっぱりお母様が淑女らしからぬ歩き方でエレーナの方に向かう。
エレーナはその様子に、諦めたように目を瞑った。
ダメ。
そう思った瞬間、はしたないかもしれないけど走り出した。そしてお母様が扇ごと振り上げた手がエレーナに着く前にその間に割り込んだ。
バチッン。と予想以上に大きな音が響いた。
そして口の中では鉄の味が広がる。エレーナはこんな暴力、毎日のように耐えていたんだな、なんて心の隅で思った。
「ターシャ嬢!!」
静まり返ったホールで響いたのは先ほどまで優しい声を掛けてくれていた第二王子だろう。
痛いな、なんて思いながら、くるりドレスを揺らしながら後ろを向いた。
そこにはエレーナを守ろうと抱きしめてくれていた第一王子。
「おね、お姉様ぁ。」
ポロ、ポロっとエレーナの目から耐えられないように涙がこぼれた。
その様子にポケットからハンカチを出して目尻を抑えた。
「ダメよ、エレーナ。せっかくロジェのお婆様が綺麗にメイクしてくれたのよ。泣くなんてもったいないわ。」
そのまま第一王子に向かってカーテシーを披露する。
「第一王子殿下、申し訳ございません、妹は気分が悪いらしいのでバルコニーにでも案内していただけないでしょうか?」
暗に妹を連れ出してくれない?と伝えれば、意図が伝わったのか、第一王子はエレーナから離れて、そしてエスコートするために手を差し出した。
エレーナは不安げな顔をしたが、笑いかければ彼女はぐっと涙をこらえるように笑った。
「行こうか、エレーナ嬢。」
そのエスコートに応えたエレーナはこの場所から離れていく。
そして今度は反対側のわなわなと怒りで震えているお母様に向き直った。
パッと扇を開いて口元を隠した。
「さて、お母様。なにをなさっているのですか?」
「ターシャ!お前もエレーナに毒されたのか!母親に似て浅ましい女に!」
「はあ、お母様。浅ましいのは貴女ですわ。」
誰もが息を呑む中、はっきりと言い切れば、お母様はまた怒りで震える。
まず、話すときに扇を使っていない時点で母は淑女として失格だ。
「もうこれ以上は限界ですわね。お母様はご病気です。領地で静養なさる方が良いですわ。もちろん、お姉様もご一緒に」
「何を言っているのターシャ!!」
今度、怒鳴り声をあげたのはお姉様だった。
これ以上、オクレール公爵家の恥部を見せ続けるのは得策ではない。
静養、と言葉ではいったが、二人には修道院に行ってもらうつもりでいた。
「ご安心くださいませ、お母様、お姉様。私が婿を取りましてオクレール公爵家の家督は存続させます。バランド前公爵と、その話はまとまっておりますので。」
その言葉に反応したのはバランドのお爺様だった。
そしてお母様、お姉様を身内とは思えないような視線見ながら歩み出てきた。
「もはやオクレール公爵夫人、オクレール公爵令嬢オリバー。二人に貴族の義務は果たせまい。幸いなことにターシャもエレーナも優秀だ。姉であるターシャはオクレール公爵を継がせ、妹のエレーナには貴族の子女としての結婚をしてもらえばオクレール公爵家は安泰だ。お前たちは安心して『静養』するがいい。」
その言葉に反応したのはお母様だった。
青ざめて「嘘よ、嘘」と呪文のように呟いていた。
お爺様がそのような言葉を吐くとは思わなかったのだろう。
「ターシャじゃ無理よ!!誰も相手にしっこない!!私が婿を取ってオクレール公爵家を継ぐわ!!」
お姉様が勝ち誇ったような表情でそう宣言した。
残念ながらお姉様が嫁ぎ先を探して行き遅れていることは周知の事実。
公爵家の肩書という旨味があってもまともな子息は飛びつかないだろうな、と思っていた。
「なら、手っ取り早い方法を提案しようか。」
突然、第三者の声が響いた。
オクレール公爵家のバカ騒ぎにくぎ付けだった。
その中で声を上げた勇者は第二王子だった。
「なんで妾腹の王子が出てくるのよ!!」
「お姉様!!」
思わず怒鳴った。
妾腹など、言っていい言葉ではない。
それに王妃様は第二王子を実の息子並みに愛情を注いでいる。
王妃様の様子を盗み見れば怒り心頭といった感じだった。
怒った顔がお母様そっくりだ。
「妾腹で結構。事実だからね。でも僕は間違いなくステファン・オーウェン。オーウェン王国の第二王子。君よりも遥かに身分は高い。その僕に対する侮辱罪で君を拘束することもできるのだよ?」
ニコッと笑った第二王子の綺麗な笑顔に背筋が寒くなった。第二王子はそのまま言葉を続けた。
「ターシャ嬢が誰にも相手にされないといっていたけれども、君よりも遥かにターシャ嬢の方が魅力的だし、ターシャ嬢と結婚して公爵になれるなら立候補も多いはずだよ。」
そう言いながら第二王子はこちらを見て微笑んだ。
どこか優しいその視線にどうしていいのか分からなくなって視線をそらした。
「さて、ここからは僕の提案です。ターシャ嬢、僕は兄上に王子が生まれた時点で王位継承権を破棄するつもりでいる。父上と兄上とその後は新規で公爵家を起こす話をしていたのだが」
そこで第二王子は口に綺麗な弧を描いた。
その自信に満ち溢れた表情は王族にふさわしいものだ。
「今、ここに公爵家を存続させるために婿を取ろうとしている令嬢がいる。僕がオクレール公爵家に婿に入って存続させる。家格も申し分ないし、どうかな?」
「……とても、合理的な案ですね。」
言葉が悪いかもしれないが、全て丸く収まる案だと思った。
バランドのお爺様に視線を向ければ、お爺様も満足そうに頷いていた。
その怒涛の流れにお母様もお姉様も呆然としていた。
「ステファン!良い案ではないか!!」
場の空気を変えるような明るい声。
その声の主が国王様だと気づいた時には周りの視線がそちらに移った。
そして国王は王妃様に視線を移し、それに対して王妃様も満足そうに笑った。
「王命として発する。オクレール公爵家に婿入りさせる形でステファン第二王子を臣籍降下させる。伴侶としてオクレール公爵家令嬢、ターシャ嬢を指名する」
その言葉の後に王妃様は扇を開いた。
続けて王妃様の言葉が続くだろうから皆、静まり返ったままだった。
「これはめでたいことですわ。我が姪と、我が息子が家族となることは、我が息子が本当の意味で親戚なるということです。これは非常に嬉しく、そしてめでたいですわ。我が妹、オクレール公爵夫人、並びに我が姪、オクレール公爵令嬢は安心して、静養地に行くとよいですわ。」
つまるところ、さっさとここから出てけ、さもなくばもっと酷い目にあうぞ。と暗に言っているみたいだけど、残念ながらお母様もお姉様も意味が通じてなくて反論しだした。
国王が呆れながら手を上げれば、衛兵らしき人間にお母様もお姉様も連れていかれた。
めちゃくちゃ叫んでいたけれども、どうしようもないよな、ともう他人事で思っていた。
「ステファンよ。オクレール公爵令嬢ターシャと共に王太子アレックスの御代に貢献せよ。」
あ、王命ってことは私の結婚相手この人決定なんだ。
他人事のように思いつつ、王の言葉にカーテシーを返した。
隣で第二王子も同じように頭を下げている。
ちょっと待って、私まだ14歳。結婚とかはやすぎやしませんか?
「安心して、成人までは待つから。」
「それは有難い話ですが……私、口に出ていました?」
「いや、そんな顔をしていただけだよ、ターシャ嬢。さて、この騒ぎを収めるためにも僕たちも出ようか?」
そう言いながら第二王子は手を差し出した。
つまるところ、エスコートしてくれるということだ。
その手を取って、退出口に向かう。誰もが道を開けていき、しまっていたドアが衛兵によって開かれた。
第二王子がエスコートしつつ、くるりとホールに向き直り、そしてカーテシーとお辞儀を同時にして、そしてホールを後にした。
パタン、と閉まった扉の音に、脚の力が抜けそうになった。
「ターシャ嬢、大丈夫かい?」
「大丈夫、と言いたいのですが、すみません、大丈夫ではありません。」
立っているだけ偉い!と自分で褒めたくなるほど足が震えている。
私の様子に第二王子は柔らかく笑った。
次の瞬間、軽々と持ち上げられた。
これは、お姫様抱っこ、だと気づくのに間が出来てしまった。
「とりあえず、お話ししようか、ターシャ嬢。……他人行儀だしターシャで構わないかな?」
「あ、ご自由のどうぞ。あと、ありがとうございます。」
重いだろうとかは思わない。
だってまだ成長期で全然お肉がついてないもの。
はっきりと言えば幼児体系なのだ。
め上な思考をしていたら、連れてこられたのは王族用の休憩室だった。
ファに降ろされて、第二王子はメイドに何か指示をしていた。
メイドが慌ただしく戻ってくれば、第二王子はそれを受け取ってからソファの隣に腰かけた。
「あの、助けていただいて、ありがとうございます。あと、我が家のごたごたに巻き込んでしまって申し訳ございません」
これは素直な気持ちだった。
よりにもよってこんな子供を押し付けられてしまったのだ、第二王子も災難としか言いようがない。
「巻き込まれたのは自分の意志だから気にしなくていいよ、ターシャ。」
そう言いながら第二王子はタオルを私の頬に当てた。
ひんやりとしたそのタオルで頬を殴られた事実を思い出した。
「腫れているね。痛い?」
その言葉に首を横に振った。痛みは麻痺しているようであまり感じない。
第二王子は痛ましそうな目で私の顔を見ていた。
「明日に痛みが来るかもね。とりあえず冷やしておくだけでも違うよ」
「まあ、自業自得ですし、それよりもエレーナが傷つかずに済んでよかったです。
あ、第二王子殿下、今のうちに色々決めたいのですが、よろしいですか?」
「第二王子殿下は他人行儀だからステファンでいいよ、ターシャ。」
「あ、はい分かりましたステファン様。」
迷い無く呼んでみれば、第二王子もといステファン様は少し困った顔をしていた。
まぁ、多くは気にするべきではないな、と勝手に納得した。
とりあえず、結婚するにしたて私は母親の悲劇を繰り返したくはない。
だから、先に決めることを決めておかないとなのだ。
「あ、まずはなのですが、もし愛人との子供を作られるなら最低限、私との子供ができてからでお願いします」
私の言葉にステファン様は、笑顔が凍り付いたような表情のまましばらく動かなくなった。

