Side ターシャ
回りの反応からしたらこれは成功したのだろうと思った。
本来なら妹のエレーナとエスコート役のロジェ子爵を先に入場させて、最後に姉の私とエスコート役のバランド元公爵となる。
だが、あえて四人並んで入場を選んだ。
つまるところ、エレーナと私は同格、ということだ。
尚且つ、互いの外祖父が後見人として歩くということは、祖父たちも同格に孫を認めていることになる。
互いのお爺様のエスコートを終えて、二人で一緒にカーテシーをした。
王の言葉があるまで頭は上げられない。まるで時が止まったように周りの音が消えた。
ちょっと王様、脚プルプルしてきたから早くお言葉をください!!
そんなことを思いつつも、隣で微動だにしないカーテシーをエレーナは見せていた。
妹とはいえ凄いわ、多分身内ひいきじゃないと思う。
「よく来たオクレール公爵令嬢。面を上げよ。」
王の言葉にやっとの思いで顔を上げた。
王の隣に座る女性が王妃。
何というか、王妃様がお母様の姉というのは知っていたけど、結構似ている。
でも王妃様の方が品格の良さを感じさせる。主にドレスが。
「オクレール公爵令嬢。二人のデビューを祝福しよう。」
この言葉を貰って、あとはお爺様と踊ればミッションコンプリートとなる。
音楽が流れだして、ダンスホールに歩き出した。
バランドのお爺様のリードはとても踊りやすく、私、ダンスは苦手ではないかも!と思いながら軽やかに踊りだした。
「全く、大きくなったものだ。すまなかったな、娘をまともに育てられなかった私の所為で苦労させた。」
密着しながらお爺様はそう言った。お母様は末っ子で甘やかしすぎた。
その所為でオクレール公爵……お父様が早死にしたのではないか、と少し影を落とした顔に変わった。
「では、私に婿を紹介してください。」
ニコッと笑ってそう言えば、お爺様は小さく笑った。
懐かしむような、楽しそうなようなそんな表情だ。
「お姉様でははっきり言ってオクレール公爵家を任せられません。エレーナは綺麗ですから王子様だって射止められると思いません?ですから、オクレール公爵家は一番地味な私が守るべきだと思うんです。その為には優秀な婿様を紹介して欲しいといいますか……」
これ、切実な話だった。
オクレール公爵家を存続させるには私が婿を取る以外に方法はないと思っていた。
エレーナは選り取り見取りで求婚が来るだろうが、私は紹介でもないと求婚は来ないだろう。
「ターシャは亡くなった妻に似ている。安心しなさい、優秀な婿を選んで、お前の父上に代わってバージンロードを歩くからな」
「よろしくお願いいたします、お爺様。」
「まあ、多分、紹介する必要はないだろうが……吟味はちゃんとするかな」
そう言いながら踊り切った私とエレーナは壁際で次のダンスのお誘いが来るのを待つ。
周りの令息たちがこちらを見ているのは分かるが、誰も近づいてこない。
「エレーナを誘いたけれども、誰も姉の私を誘わないから誘えない、ってところかしら?」
そんなことを扇で口元を隠しながら呟いた。
声の聞こえる範囲の隣にいるエレーナも同じように口元を隠した。
「そんなはずないですよ、お姉様。多分、ちょっと着飾りすぎて近づけないだけです。」
なんと、めちゃくちゃいい子。
フォローも完璧。
流石、エレーナ。
そんなことを思っていれば自然と人垣が開かれて道ができる。
その真ん中を歩いてくる王子。
さっき挨拶したときに王族の椅子座っていたし、第二王子の方だけど、第一王子に子供出来たら臣籍降下する予定で公爵家は確実!!
エレーナの相手としては不足ない!!
釣れたよ大物!!
「踊っていただけますか?ターシャ嬢。」
そう言われながら私に向かって手を差し出した。
あ、コラ、エレーナ、ガッツポーズしちゃダメよ。
こっそり見えないようにやったのは褒めるけど。
「え?」
思わず声が出てしまった。
扇で口元を隠していたから間抜けな顔は見えていないはず。
だが、残念ながら声は届いてしまったらしく、王子はニコッと人懐こい笑顔を浮かべて手を更に近づけた。つまるところ、『私は引くつもりはありませんよ。』ってことになる。
まあ、王子様だから第一王子か王様来ない限りこれは断れないわけで……。
あ、そう言うことか!エレーナと踊りたいけれども、姉私だもんね。
先に私と踊らないと無礼になるし、やっぱり王子様、その辺りの気づかい流石です。
パチン、と扇を閉ざしながら、その王子の手と私の手の間に閉じた扇を挟むようにして手を取った。
『一曲はお付き合いしますよ』との意味が含まれている。
ざわっと会場が湧いた気がした。
失礼なことは分かっているが、さっさと一曲踊ってエレーナにパスしたい。にこりと笑いかけてから一言。
「よろしくお願いいたします。」
ダンスホールに繰り出せば、流れてきたのはゆったりとした曲のメヌエット。
ゆったりとしたダンスに、これまたリードが上手い人と来た。
『スローテンポの曲ほど技術がいる』と、ダンスの先生はおっしゃっていた。
つまるところこの王子様の技量は素晴らしいということになる。
「ターシャ嬢。」
急に名前を呼ばれたので王子様を見上げた。
第一王子とは違い、金髪に緑の瞳。
金髪は少し癖がある感じで、ふわふわしてそうだな、なんて触れることのない髪を見つめていた。
「ターシャ嬢は扇を挟む意味はご存じですよね?」
何を当たり前のことを聞いてくるのだ、という意味で笑った。
この一曲が終わったらエレーナにパスするんだ!!と引き攣りそうな笑顔を浮かべ続けた。
第二王子も同じように笑顔を崩さない。
まるで仮面を張り付けたみたいな笑顔のまま、メヌエットを踊り切った。
よし、戻ろう、と第二王子の目の前でカーテシーを披露して、彼がエスコートするための手が差し出されるのを待った。
周りがダンスホールを後にしようとしている中、やっと第二王子は手を差し出した。
やっとか、と思って先ほどと同じように扇を挟めば、彼は扇を掴んだ。
「え?」
本日二度目の困惑である。
この王子様、見かけ爽やか系だけど腹黒系?とどうでもいいことが頭に浮かんだ。
第二王子は扇を取って、そして私の左手に持たせる。
礼儀違反ではないが、推奨されることでもない。
そんなことを思っているうちに、次の曲の踊り手たちがダンスホールに入ってくる。その中にエレーナと第一王子の姿があるのを見つけた。
エレーナ、グッジョブ!!もっと大物じゃん!!
ハッと現在の状況に不味い、ということを理解した。通常二曲連続は婚約者同士でしか踊らない。
それ以外に踊るとしたなら、それは『求婚したい』という意味になる。
「第二王子殿下、待ってください、ほんと、まずいですって!」
こっそりだが、必死に訴えた。
無情にも二曲目のワルツの音楽が流れだした。
私は再びステップを踏み出すしかなかった——。
回りの反応からしたらこれは成功したのだろうと思った。
本来なら妹のエレーナとエスコート役のロジェ子爵を先に入場させて、最後に姉の私とエスコート役のバランド元公爵となる。
だが、あえて四人並んで入場を選んだ。
つまるところ、エレーナと私は同格、ということだ。
尚且つ、互いの外祖父が後見人として歩くということは、祖父たちも同格に孫を認めていることになる。
互いのお爺様のエスコートを終えて、二人で一緒にカーテシーをした。
王の言葉があるまで頭は上げられない。まるで時が止まったように周りの音が消えた。
ちょっと王様、脚プルプルしてきたから早くお言葉をください!!
そんなことを思いつつも、隣で微動だにしないカーテシーをエレーナは見せていた。
妹とはいえ凄いわ、多分身内ひいきじゃないと思う。
「よく来たオクレール公爵令嬢。面を上げよ。」
王の言葉にやっとの思いで顔を上げた。
王の隣に座る女性が王妃。
何というか、王妃様がお母様の姉というのは知っていたけど、結構似ている。
でも王妃様の方が品格の良さを感じさせる。主にドレスが。
「オクレール公爵令嬢。二人のデビューを祝福しよう。」
この言葉を貰って、あとはお爺様と踊ればミッションコンプリートとなる。
音楽が流れだして、ダンスホールに歩き出した。
バランドのお爺様のリードはとても踊りやすく、私、ダンスは苦手ではないかも!と思いながら軽やかに踊りだした。
「全く、大きくなったものだ。すまなかったな、娘をまともに育てられなかった私の所為で苦労させた。」
密着しながらお爺様はそう言った。お母様は末っ子で甘やかしすぎた。
その所為でオクレール公爵……お父様が早死にしたのではないか、と少し影を落とした顔に変わった。
「では、私に婿を紹介してください。」
ニコッと笑ってそう言えば、お爺様は小さく笑った。
懐かしむような、楽しそうなようなそんな表情だ。
「お姉様でははっきり言ってオクレール公爵家を任せられません。エレーナは綺麗ですから王子様だって射止められると思いません?ですから、オクレール公爵家は一番地味な私が守るべきだと思うんです。その為には優秀な婿様を紹介して欲しいといいますか……」
これ、切実な話だった。
オクレール公爵家を存続させるには私が婿を取る以外に方法はないと思っていた。
エレーナは選り取り見取りで求婚が来るだろうが、私は紹介でもないと求婚は来ないだろう。
「ターシャは亡くなった妻に似ている。安心しなさい、優秀な婿を選んで、お前の父上に代わってバージンロードを歩くからな」
「よろしくお願いいたします、お爺様。」
「まあ、多分、紹介する必要はないだろうが……吟味はちゃんとするかな」
そう言いながら踊り切った私とエレーナは壁際で次のダンスのお誘いが来るのを待つ。
周りの令息たちがこちらを見ているのは分かるが、誰も近づいてこない。
「エレーナを誘いたけれども、誰も姉の私を誘わないから誘えない、ってところかしら?」
そんなことを扇で口元を隠しながら呟いた。
声の聞こえる範囲の隣にいるエレーナも同じように口元を隠した。
「そんなはずないですよ、お姉様。多分、ちょっと着飾りすぎて近づけないだけです。」
なんと、めちゃくちゃいい子。
フォローも完璧。
流石、エレーナ。
そんなことを思っていれば自然と人垣が開かれて道ができる。
その真ん中を歩いてくる王子。
さっき挨拶したときに王族の椅子座っていたし、第二王子の方だけど、第一王子に子供出来たら臣籍降下する予定で公爵家は確実!!
エレーナの相手としては不足ない!!
釣れたよ大物!!
「踊っていただけますか?ターシャ嬢。」
そう言われながら私に向かって手を差し出した。
あ、コラ、エレーナ、ガッツポーズしちゃダメよ。
こっそり見えないようにやったのは褒めるけど。
「え?」
思わず声が出てしまった。
扇で口元を隠していたから間抜けな顔は見えていないはず。
だが、残念ながら声は届いてしまったらしく、王子はニコッと人懐こい笑顔を浮かべて手を更に近づけた。つまるところ、『私は引くつもりはありませんよ。』ってことになる。
まあ、王子様だから第一王子か王様来ない限りこれは断れないわけで……。
あ、そう言うことか!エレーナと踊りたいけれども、姉私だもんね。
先に私と踊らないと無礼になるし、やっぱり王子様、その辺りの気づかい流石です。
パチン、と扇を閉ざしながら、その王子の手と私の手の間に閉じた扇を挟むようにして手を取った。
『一曲はお付き合いしますよ』との意味が含まれている。
ざわっと会場が湧いた気がした。
失礼なことは分かっているが、さっさと一曲踊ってエレーナにパスしたい。にこりと笑いかけてから一言。
「よろしくお願いいたします。」
ダンスホールに繰り出せば、流れてきたのはゆったりとした曲のメヌエット。
ゆったりとしたダンスに、これまたリードが上手い人と来た。
『スローテンポの曲ほど技術がいる』と、ダンスの先生はおっしゃっていた。
つまるところこの王子様の技量は素晴らしいということになる。
「ターシャ嬢。」
急に名前を呼ばれたので王子様を見上げた。
第一王子とは違い、金髪に緑の瞳。
金髪は少し癖がある感じで、ふわふわしてそうだな、なんて触れることのない髪を見つめていた。
「ターシャ嬢は扇を挟む意味はご存じですよね?」
何を当たり前のことを聞いてくるのだ、という意味で笑った。
この一曲が終わったらエレーナにパスするんだ!!と引き攣りそうな笑顔を浮かべ続けた。
第二王子も同じように笑顔を崩さない。
まるで仮面を張り付けたみたいな笑顔のまま、メヌエットを踊り切った。
よし、戻ろう、と第二王子の目の前でカーテシーを披露して、彼がエスコートするための手が差し出されるのを待った。
周りがダンスホールを後にしようとしている中、やっと第二王子は手を差し出した。
やっとか、と思って先ほどと同じように扇を挟めば、彼は扇を掴んだ。
「え?」
本日二度目の困惑である。
この王子様、見かけ爽やか系だけど腹黒系?とどうでもいいことが頭に浮かんだ。
第二王子は扇を取って、そして私の左手に持たせる。
礼儀違反ではないが、推奨されることでもない。
そんなことを思っているうちに、次の曲の踊り手たちがダンスホールに入ってくる。その中にエレーナと第一王子の姿があるのを見つけた。
エレーナ、グッジョブ!!もっと大物じゃん!!
ハッと現在の状況に不味い、ということを理解した。通常二曲連続は婚約者同士でしか踊らない。
それ以外に踊るとしたなら、それは『求婚したい』という意味になる。
「第二王子殿下、待ってください、ほんと、まずいですって!」
こっそりだが、必死に訴えた。
無情にも二曲目のワルツの音楽が流れだした。
私は再びステップを踏み出すしかなかった——。

