Side ターシャ

泣いた後はスッキリする。

メイク担当のメイドが呆れながらも私とエレーナの瞼を冷やしてくれた。
幸いなことに腫れはしなかったし、しかも暗い顔だったらしい私が泣いた後にぐっすりと寝た為か顔色が良くなっていたらしい。

それはエレーナも一緒らしく、同じベッドで目覚めた時、互いに笑い合った。

エレーナが居たから、私はお母様とお姉様を見限ることができたのだ。

「さぁさぁ、二人とも!!今日はデビュタント!着飾りますよ!!」

そう言いながら侍女やメイドたちはドレスに、靴に、メイク、髪形とこれはどうだ?あれはどうだ?と組み合わせながら私たちを着飾っていく。

やはり、エレーナは美しい。

彼女と対になるように作られたドレスは、ちょっと自信を無くしそうになった。
出来上がった私とエレーナの姿に、侍女も、メイドも、お婆様も、みんな満足げにほほ笑んだ。

「ターシャ、ちょっといいか?」

ドア越しに声を掛けてきたのはロジェ子爵だった。

大丈夫、という意味でジェスチャーすれば、扉はゆっくりと開かれた。

そこに立っていたのはロジェ子爵ともう一人、子爵の同年代らしき男性だった。

「ターシャ、お前に来客だ」

「ヴィル、儂はエレーナにも会いに来たのだがな?」

「はは、失礼したルード。ターシャ、エレーナ、二人に来客だ」

ヴィルというのがヴィルヘルム・ロジェ。ロジェ子爵の愛称。
そして、ルードは多分。

「ターシャ、久し振りだな。こんなに大きくなったのだな……。それとエレーナは初めましてだ。ルードヴィヒ・バランド。バランドの前公爵だ」

「お久しぶりでございます、お爺様」

そう言いながら仕上がったばかりのデビュタントの衣装でカーテシーをする。
つられるようにエレーナもまた、倣うようにカーテシーをした。

「初めまして、バランド閣下。」

ちらりと見上げれば、バランド前公爵は面白くなさそうな顔をした。
バランド前公爵の不服そうな顔を横目に見ながら、自慢げに笑みを浮かべるロジェ子爵。

「エレーナ、儂にとってはエレーナも孫だ。気軽に『お爺様』と呼んでおくれ」

「え?」

思わず、驚きの声を上げたエレーナ。
確かにそう言うことをいうとは思っていなかったのだろう。

「エレーナ、バランドのお爺様の厚意に甘えましょう。」

「はい、ターシャお姉様。では、よろしくお願いいたします、バランドのお爺様。」

その言葉の後にエレーナは嬉しそうにほほ笑んだ。

それに満足したのかバランドのお爺様も満足げ笑った。
そしてバランドのお爺様が手を上げれば、二人の侍従が部屋に箱を運び込んできた。

そしてその箱を開ければ、青と銀の宝石が輝いていた。

「デビュタントの祝いにヴィルからドレスだと聞いていたのでな……。だから儂からは装飾品としようと思った」

「サファイヤとダイヤモンドか?」

「すぐに分かるか……さすがだルード。バランド公爵領で採掘された最高峰の宝石二つだ。合わせてイヤリングも作ったのだが……。」

その宝石二つを眺めながらバランドのお爺様は悩んだようだった。
そしてチラッと見たロジェ子爵も同じことを考え付いたらしく、侍従たちに箱を入れ替えさせた。

「本当は二人の瞳に合わせて送るつもりだったのだが、二人が同じ目をしているモノだから互いの瞳の色に変えよう。」

そう言いながら私の目の前に立っていた侍従からバランドのお爺様がネックレスを受け取った。

そしてそれを私の首に巻き付けた。

「ターシャにはサファイヤ。エレーナの瞳のブルーの宝石(サファイヤ)を送ろう。」

そう言いながら耳には同じ石のイヤリングを付けられた。

今度はエレーナの目の前の侍従からネックレスを受け取る。

「エレーナにはダイヤモンド。ターシャの瞳のシルバーグレーの宝石(ダイヤモンド)を送ろう。」

同じように耳にもイヤリングを付ければ、その宝石が全く同じデザインであったことに気が付いた。

「ヴィルからドレスは色違いのものにしたと聞いたのでな。宝石職人に二人のドレスの姿絵を見せて作らせた。宝石以外は同じデザインになるように」

そこまで言ったバランドのお爺様は私とエレーナを見てほほ笑む。

「だが、今二人を見て思った。自分の瞳の色よりも、姉妹の瞳の色の方がデビュタントの勇気づけになるとな」

そう言ったバランドのお爺様は満足そうに私とエレーナを見ていた。
隣のエレーナを見ればとても嬉しそうな顔をしていた。