Side エレーナ

先程まで私に行われていたエステを、今度はターシャお姉様が受ける。
お婆様の侍女たちが私の肌にパックを載せてきた。

その施術を受ける私を見ながら、お婆様は嬉しそうに笑う。

「若さとは羨ましいわ。エレーナは健康的な肌ですし、ターシャはきめ細やかな肌ですし、磨き甲斐があるわ!」

ふと、思い出すあの悪夢のような日々。
そこから救いあげてくれたのはターシャお姉様だった。

あの日、ポロポロと泣きながら謝っていたお姉様はいろんな手を使って私をかばうようになった。

守られてばかりではいけない。

そう思って、礼儀作法は死ぬ気でやった。
王妃殿下の礼儀作法を担当した伯爵夫人に家庭教師をしてもらい、伯爵夫人が最高と言わしめるまで礼儀を極めた。

幸いにも、私の隣には『礼儀作法のお手本』と名高いターシャお姉様がいる。

その評判のおかげで、お義母様やお義姉様は呼ばれない茶会にターシャお姉様と参加して、少しずつだがお義母様やお義姉様と、私達は違うと証明した。

「あら、暗い顔ね。お婆様に話してみない?」

「ターシャお姉様のことを考えていました。」

言葉に出してしまえば思うことがたくさんあった。

私を守ったのはターシャお姉様だ。彼女からしたら実母、実姉を裏切る形だ。

逆に私はどうだ?与えられてばかりではないか。

祖父母も、教育も、そして、愛情も。何も返せていない、そう思った。
ポツポツと呟いていけば、お婆様がそっと、頭を撫でた。

「そうね、ターシャはとってもいい子なのだけれども頑張りすぎているわ。でもエレーナ、ターシャはそんなこと思ってないみたいよ?」

そう言いながらお婆様は扉を開けた。
そこにはかつて見たように涙をポロポロと落としているターシャお姉様が居た。

「ごめんなさい。」

かつて見た光景と同じようだった。

その涙は真珠のようで綺麗な涙だった。

そうだ、この人だって私と同じ年で、三か月しか差がないのだ。

なのに必死で守ってくれて、でも彼女を守っていたのは、誰?

思わず、走り出して、ターシャお姉様を抱きしめた。

本来ならはしたないと怒られかねない行動だ。けれどもどうしてもそうしたかった。

「全部悪いのはお母様だし、貴族としての義務を果たせていないお姉様もだし。前々から分かっていたの。でも、やっぱり身内で、見捨てられなかったの……。でもローランドに見せられた帳簿とか……これ以上はお父様の名前が堕ちてしまう。なら、見捨てようと……。でも、一人じゃ怖くて……エレーナを巻き込んだのは私よ。」

「私が巻き込んだのよ……。」と蚊の鳴くような声でターシャお姉様は泣き続けた。そんな私たちを抱きしめたのはお婆様だった。

「違うわよ、二人とも。貴女たちは大人がする責務を押し付けられだけ。本当によくやっているわ。」

そう言ったお婆様の声はひどく優しかった。

私もお姉様もデビュー直前とは思えないほどわんわん泣き続けた。