「……ひまわり、たくさん咲いてるなぁ」

 彼女に会いにひまわり畑の横を通ると、僕より少し背の高いひまわりたちが、燦々と咲き乱れていた。

「……日葵(ひなた)見てるかな?今年もこんなにたくさん、みんな可愛らしく咲いてるよ。それとも……もしかしてこのひまわりの中に、君も咲いてたりして」

 今日は日葵に会いに、このひまわり畑の先にある……日葵の墓に墓参りに行く。
 日葵は去年、大好きなひまわりが開花するところを見ることなく、この世を去ってしまったのだ。

「日葵……」

 ゆらゆらと風に揺らめくひまわりたちを見ていると、亡くなる直前の日葵の笑顔を思い出す。



 日葵が亡くなる直前、僕は日葵の乗る車イスを押しながら、このひまわり畑に来た。まだ花開かない、緑のひまわりを見て、2人でがっかりしながら。

『……私ね、生まれ変わったらひまわりになりたいな』
『ひまわり?夏にしか咲かないんだよ?寿命短いじゃん』
『うん。だから、枯れたらまた次の年も、ひまわりになって咲きたいんだ。そしたら理太(りた)に毎年会えるし、私が死んでも理太は私のこと絶対忘れないでしょ?』
『……忘れるわけないだろ?それに死ぬ……とか言うなよ。ひまわりが花咲くところ見たいんだろ──……日葵?日葵!!』

 
 日葵は僕とそんな話をした直後、この世から去った。


 ひまわりを見つめながら、ほろほろ。暖かい雫が頬を零れていく。すると。
 

 ぶわり!


 突風がひまわりたちを撫で、そして僕の頬を撫で過ぎると。

「 ──理太 」

 ひまわり畑の隙間から、日葵の声がした……気がした。気のせいと思ったけど、何度も何度も、僕の名前を呼ぶ日葵の声が、ひまわり畑の奥からした。

 僕はひまわり畑を掻き分けながら、日葵の声の方へと向かった。するとそこには、他のひまわりより背の低いひまわりが一輪だけ咲いていた。日葵の声は、そのひまわりからした。

「……日葵、なのか?」

 そのひまわりに声をかけると。

「 ──理太、私ひまわりに生まれ変わったよ。また、理太とお話しできるね 」

 僕は泣きながら、そのひまわりを抱きしめるようにふわりと腕の中に包んだ。

「そうだな……また、一緒にいられるね」















「理太……どこに行っちゃったのよ……」

 理太の母親が涙ながらに、ひまわり畑の前でひとりごちていた。
 
 去年、理太は日葵の墓参りに行くと言ったきり、行方不明になったのだ。




 そのひまわり畑の真ん中。
 
 身長差のある二輪のひまわりが、まるで手を握るように葉を重ねていた。


 

 夏が来る度、その手を繋いだようなひまわりたちが必ず咲いた────