自室に戻ったディアナを、メイドのアンが笑顔で出迎える。
「お嬢様にお手紙です」
元専属メイドのエレンに頼んだときは、何日もかかっていた手紙のやりとりが、アンに代わってからすごく早くなった。
その理由を尋ねたところ、ディアナから手紙を受け取ったらすぐに自分で、相手先まで届けに行ってくれているらしい。そして、今回は届けた先で「今から返事を書くから、待っていてくれ」と言われたそうで、返事まで受け取ってきてくれた。
「ありがとう。仕事が早いのね。助かるわ」
『嬉しい』と囁く白い蝶を飛ばしながら、アンはディアナに手紙を渡す。
(ライオネル殿下からだわ)
契約婚約の話をしたいから、王宮まで来てほしいとのこと。日にちはいつでもいいと書かれていたので、ディアナは今日これから向かうことにした。
(ちょうど法律に詳しい人を紹介してもらいたかったから助かるわ)
最近のディアナは、エレンが「こんな地味な服、お嬢様には似合いませんよ」と言っていたワンピースをクローゼットの奥から取り出して着るようにしている。
着替えを手伝ってくれていたアンが「お嬢様、お似合いです」と瞳を輝かせた。アンの白い蝶も『素敵』と囁いている。
(アンのことは、信頼できるわ)
ディアナは、クローゼット中にあるもう着ることのない子どもっぽいデザインのドレスやワンピースをすべて売ることにした。
父に嫌われていると分かったからには、これから何が起こっても大丈夫なように、できるだけ自分のお金を確保しておきたい。
「お願いできるかしら?」
「もちろんです! お任せください」
「売れなかったものはどこかに寄付してもらってもいいわ。あっ、あと、気に入ったものがあれば一着持っていっていいわよ」
「えっ!?」
大きく目を見開きアンは固まってしまう。ディアナは、そんなアンを見てハッとなった。
(私のこういう言動がよくないのかしら?)
ディアナは、エレンにもよく物をあげていた。喜んでくれているものとばかり思っていたが、もしかしたら下に見て施されたと感じていたのかもしれない。
(こんなだから、『偉そうに』とか『脳内お花畑女』とか言われてしまったのかも……)
不安になってアンの蝶を見ると『天使』と呟いている。
(天使? どういう意味なの?)
アンに「本当にいいんですか?」と尋ねられて「ええ」と返すと、また蝶が『天使』と囁く。
「う、嬉しいです! お嬢様は、まるで天使様のようです」
(あっ、そういう意味だったのね)
ホッと胸を撫で下ろしてから、ディアナはライオネルが待つ王宮へと向かった。
手紙を受け取ってすぐに会いに来たにもかかわらず、出迎えてくれた女性騎士カーラは歓迎してくれている。前に来たときと同様、すぐにライオネルも客室に来てくれた。
ライオネルは、相変わらず黒い仮面をつけているので、なかなか表情が読み取れない。しかし、彼の白い蝶は『嬉しい』と囁きながら飛んでいる。
ソファーに向かい合って座るディアナとライオネルに、カーラがお茶とお菓子を出してくれた。
先に話しを切り出したのはライオネルのほうだ。
「まず、契約婚約に賛同してくれたことに心から感謝する」
「こちらこそ、素敵なご提案をありがとうございました」
「今日は、もう少し話を詰めていこう」
「はい」
ライオネルは、この婚約を早急に進める必要があったが、ディアナだって同じだ。二人の気持ちは完全に一致している。そのため、話し合いは驚く速さで進んでいった。
「まず、あなたとロバート卿の婚約を、王家が間に入り解消するつもりだが問題ないか?」
「問題ありません。でも、コールマン侯爵家とバデリー伯爵家の間で大きな事業が進んでいます。これはどうされるのですか?」
「その点は、部下に調べさせておいた。双方が不利益にならないように、こちらで調整する」
ディアナは『そんなことができるのね』と感心した。ライオネルの横で、カーラが黙々と羽ペンを走らせている。書記官役をしてくれているようだ。
「以前も伝えたが俺は近々、公爵位を賜り臣籍降下する。その際に王位継承権も放棄する予定だ。かまわないか?」
「かまいません」
「良かった」と呟いたライオネルの口元は、かすかに微笑んでいるように見えた。
「あなたとロバート卿の婚約が解消され次第、私達の婚約を大々的に発表する。この辺りの準備は、兄嫁がしてくれる予定だ」
「兄嫁ということは、王太子妃殿下がしてくださるということでしょうか?」
「ああ、そうだ」
『とんでもない話になってきた』と、ディアナは内心あせった。
「俺からはこれくらいだが、ディアナ嬢はどうだ?」
「契約婚約については、何もありません。でも、別件でご相談したいことがありまして……」
ライオネルは淡々と「どうした?」とディアナに尋ねたが、彼の蝶は『すごく嬉しい』と喜んでいる。
(なんだか殿下の蝶が、可愛く見えてきたわ)
ディアナは、ライオネルと蝶のあまりの温度差に、思わずフフッと笑ってしまった。
「お嬢様にお手紙です」
元専属メイドのエレンに頼んだときは、何日もかかっていた手紙のやりとりが、アンに代わってからすごく早くなった。
その理由を尋ねたところ、ディアナから手紙を受け取ったらすぐに自分で、相手先まで届けに行ってくれているらしい。そして、今回は届けた先で「今から返事を書くから、待っていてくれ」と言われたそうで、返事まで受け取ってきてくれた。
「ありがとう。仕事が早いのね。助かるわ」
『嬉しい』と囁く白い蝶を飛ばしながら、アンはディアナに手紙を渡す。
(ライオネル殿下からだわ)
契約婚約の話をしたいから、王宮まで来てほしいとのこと。日にちはいつでもいいと書かれていたので、ディアナは今日これから向かうことにした。
(ちょうど法律に詳しい人を紹介してもらいたかったから助かるわ)
最近のディアナは、エレンが「こんな地味な服、お嬢様には似合いませんよ」と言っていたワンピースをクローゼットの奥から取り出して着るようにしている。
着替えを手伝ってくれていたアンが「お嬢様、お似合いです」と瞳を輝かせた。アンの白い蝶も『素敵』と囁いている。
(アンのことは、信頼できるわ)
ディアナは、クローゼット中にあるもう着ることのない子どもっぽいデザインのドレスやワンピースをすべて売ることにした。
父に嫌われていると分かったからには、これから何が起こっても大丈夫なように、できるだけ自分のお金を確保しておきたい。
「お願いできるかしら?」
「もちろんです! お任せください」
「売れなかったものはどこかに寄付してもらってもいいわ。あっ、あと、気に入ったものがあれば一着持っていっていいわよ」
「えっ!?」
大きく目を見開きアンは固まってしまう。ディアナは、そんなアンを見てハッとなった。
(私のこういう言動がよくないのかしら?)
ディアナは、エレンにもよく物をあげていた。喜んでくれているものとばかり思っていたが、もしかしたら下に見て施されたと感じていたのかもしれない。
(こんなだから、『偉そうに』とか『脳内お花畑女』とか言われてしまったのかも……)
不安になってアンの蝶を見ると『天使』と呟いている。
(天使? どういう意味なの?)
アンに「本当にいいんですか?」と尋ねられて「ええ」と返すと、また蝶が『天使』と囁く。
「う、嬉しいです! お嬢様は、まるで天使様のようです」
(あっ、そういう意味だったのね)
ホッと胸を撫で下ろしてから、ディアナはライオネルが待つ王宮へと向かった。
手紙を受け取ってすぐに会いに来たにもかかわらず、出迎えてくれた女性騎士カーラは歓迎してくれている。前に来たときと同様、すぐにライオネルも客室に来てくれた。
ライオネルは、相変わらず黒い仮面をつけているので、なかなか表情が読み取れない。しかし、彼の白い蝶は『嬉しい』と囁きながら飛んでいる。
ソファーに向かい合って座るディアナとライオネルに、カーラがお茶とお菓子を出してくれた。
先に話しを切り出したのはライオネルのほうだ。
「まず、契約婚約に賛同してくれたことに心から感謝する」
「こちらこそ、素敵なご提案をありがとうございました」
「今日は、もう少し話を詰めていこう」
「はい」
ライオネルは、この婚約を早急に進める必要があったが、ディアナだって同じだ。二人の気持ちは完全に一致している。そのため、話し合いは驚く速さで進んでいった。
「まず、あなたとロバート卿の婚約を、王家が間に入り解消するつもりだが問題ないか?」
「問題ありません。でも、コールマン侯爵家とバデリー伯爵家の間で大きな事業が進んでいます。これはどうされるのですか?」
「その点は、部下に調べさせておいた。双方が不利益にならないように、こちらで調整する」
ディアナは『そんなことができるのね』と感心した。ライオネルの横で、カーラが黙々と羽ペンを走らせている。書記官役をしてくれているようだ。
「以前も伝えたが俺は近々、公爵位を賜り臣籍降下する。その際に王位継承権も放棄する予定だ。かまわないか?」
「かまいません」
「良かった」と呟いたライオネルの口元は、かすかに微笑んでいるように見えた。
「あなたとロバート卿の婚約が解消され次第、私達の婚約を大々的に発表する。この辺りの準備は、兄嫁がしてくれる予定だ」
「兄嫁ということは、王太子妃殿下がしてくださるということでしょうか?」
「ああ、そうだ」
『とんでもない話になってきた』と、ディアナは内心あせった。
「俺からはこれくらいだが、ディアナ嬢はどうだ?」
「契約婚約については、何もありません。でも、別件でご相談したいことがありまして……」
ライオネルは淡々と「どうした?」とディアナに尋ねたが、彼の蝶は『すごく嬉しい』と喜んでいる。
(なんだか殿下の蝶が、可愛く見えてきたわ)
ディアナは、ライオネルと蝶のあまりの温度差に、思わずフフッと笑ってしまった。


