winter song 〜君に捧ぐたった一つの歌〜

クリスマス会も終盤にかかり、施設長や本部の人達が今日朝からざわついていた会社のお偉いさんだという人達を連れてやってきた…



施設の視察だと言ってやってきたお偉いさんたちは数人いる…



視察に来たお偉いさん達の真ん中にいる人物に私は驚いた



拓…?



私が見間違えるはずはない
    


数人で来たお偉いさん達の中心にいたのは、間違いなくもう5年も会っていなかった拓だった…



拓…



私は思わず声に出して叫んでしまいそうだった…



気付くと私は目から涙を流して泣いていた…



「愛奈ちゃん」



どうしたの?泣いて?



香織さんに声を掛けられて、私は自分が泣いている事に気付く     



「な、何でもないです。目にゴミが入ったのかな?」



私は誤魔化すように涙を拭った…



数人の人達に囲まれた拓は、私達職員に一礼すると、こちらに気付いていないのか、通り過ぎて行ってしまった…



「真ん中の人専務だって。まだ20代じゃない?若いのにねー」



香織さんが私に相槌を求めながら話しかける



「そ、そうなんですか…まあ私達にはあまり関わりのない人達ですけどね」



私は関係のない人達だと言うのを強調して言ってみた



実際もうその後、拓の姿を見ることはなかった…



向こうは多分私に気づいてすらいないのだ



私はもう自分が忘れ去られた存在なのに自分だけ気にしている事が恥ずかしくなった…