winter song 〜君に捧ぐたった一つの歌〜

まさか拓が、葉山ホールディングスのご子息⁈



拓のお父さんは葉山ホールディングスの社長⁈



私は信じられない気持ちでいっぱいになった…



食堂に場所を移した私達に何とも言えない緊張が走る



そんな中拓のお父さんが静かに口を開いた…



「この度は家の拓人が、大事なお嬢さんを傷つけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。それに伴って、一先ず拓人のした事への責任として、お見舞金をお持ちしました」



先ず、お納めください



そう言って拓のお父さんはシルク地の高級そうな布に包まれたお札の束を差し出した…



多分300万円はあるだろうと言う札束に私も私の両親も驚く…



「ちょっと待ってください。これは何ですか?私達は何もお金が欲しいと言っているわけじゃありません」



こんな物貰えません 



お父さんは少し声が荒がり、怒りで震えている…



「もうご存知だと思いますが、私どもの会社は、日本有数の大企業です。この事が公になれば、マスコミが駆けつけ、面白おかしく騒ぎ立てられ、会社にとっても大ダメージになりかねません。つまり、この事は内密に願いたい」



これはその示談金です    

  

そう淡々と言葉を発する拓のお父さんの言葉に、私の頭は真っ白になった…



示談金?



つまり、口止め料って事?



そんなのいらない…



「私は…」   



そう言おうとした時…



「ふざけるな。家の娘を見くびらないでもらいたい。こんな物はいらない。早く持って帰ってくれ」



帰れ



お父さんは拳を握りしめながら怒りを露わに拓のお父さんに言い放った…



「分かりました…今日の所は帰ります」



差し出したお金を引っ込めながら、拓のお父さんとお母さんは帰ろうと席を立った…



「あの…?」



私は去ろうとする拓のお父さんとお母さんを呼び止めた



「拓は…拓は今どうしてますか?拓と話がしたいんです。拓に会わせてください」



拓に昨日から会えていない



私はただ拓に会いたい…



その一心だった…



「拓人は、もう貴方には会いません。どうせ若い頃の一時の火遊びです。どうせ本気じゃない。貴方も早く、拓人のことは忘れてください」



拓のお父さんは、冷たく私にそう言い放った…



早く帰ってくれ



お父さんはまた怒りを露わにして拓のお父さんに罵声を浴びせる



一時の火遊び…?



どうせ本気じゃない…?



私の頭は絶望でいっぱいになった…



拓にもう会えない?



嘘だ…



拓に会いたい



会いたいよ…拓…



私はもう会えない拓を思いながら、その日一晩中泣いた



私達の一緒にいた日々は、ただの一時の火遊びですか?



どうせ本気じゃない、軽い付き合いですか?



拓…貴方に会いたいです…



貴方の声が聴きたいです…



私は眠れぬ晩を過ごした…