winter song 〜君に捧ぐたった一つの歌〜

「僕には、昔からどうしても欲しい物なんてないんだ…特に会社は…長男に産まれたから継いでるだけだ。お前が会社をやってくれるなら、僕は僕のやりたいことをやって自由に生きるよ」



会社を頼む…



僕はそう言って隆人に頭を下げた…



「そっか…じゃあ俺が会社をやって行く。昔から兄さんとは、言い争いにも、喧嘩にもならないもんな。俺は一度くらい兄さんとは喧嘩してみたかったけどな」



隆人はそう皮肉を言って苦笑すると、じゃあ帰るよ。と言って一口酒を飲んで席を立った…



隆人…



僕は去ろうとする隆人を呼び止めた…



「お前が俺を嫌いでも、僕はお前が嫌いじゃなかったよ」



結婚おめでとう




僕は苦笑しながら去ろうとする隆人に結婚の祝いの言葉を言った




「それはどうも」



隆人は後ろを向きながら右手を振って帰って行った…



僕の顔から笑みが溢れる



いつもどこかぎこちなくて中々話す機会もなかった弟と話せて、僕は今まで抱えていた心の重荷が取れた気がした…

 

隆人、お前がいたから僕は自由に好きなことができたんだ



強欲で父さんの期待を一心に背負ってくれたお前が弟だったから、僕は背負いたくないものを背負わずに済んだ



有難う隆人…



父さんを…会社を頼む…



僕は弟の隆人に感謝して一礼した…