winter song 〜君に捧ぐたった一つの歌〜

「嫌いだったよ。昔から俺にないものを全て持ってるのに、全然生かそうとしない」



そんな兄さんが歯痒くて嫌いだった…



隆人の言葉は意外だった



「全て持ってるのはお前だろ。昔から父さんはお前に期待をかけてきた。俺は父さんの目の上のたんこぶみたいなものだよ。いない方がいいような存在だ…」



僕は昔からお前が羨ましかった…



お酒を飲みながら話し出す僕達はいつになく本音が出る



「兄さんは何もわかってないんだな。父さんは昔から俺じゃなくて兄さんに期待してたんだ。だけど、兄さんに全くその気がないから、仕方なく父さんは俺に期待をかけただけだ…」



隆人の口調は強くなる



隆人はまた酒を飲みながら口を開いた…



「兄さんは昔から何でも持ってた…長男の座も、母さんの愛情も、頭のいい頭脳も、何でもこなせる器用さも、人を惹きつける魅力も、会社をやって行く手腕も、父さんの期待も…」



俺より兄さんの方が何でも上だ…



俺は兄さんが羨ましかったよ…



隆人の言葉はまた意外だった…



父さんの期待を一心に受けて、昔から何でも僕より出来がよかったのに、僕の方が何でも出来て器用だと言うのだ…



そんな事ないと言って僕は苦笑した…



「そういう何一つ欲がないところも嫌いだった…」


 
隆人は悔しそうに言葉を発するが、その真意は僕への優しさを感じた…



「僕には昔から会社をやっていきたい意志がないんだ…誰かを蹴落としてまで上に登りたいという野心もない…僕には会社のトップになる器がないんだ…」



僕は正直な気持ちを隆人に打ち明けた…



「兄さんのそういうところ本当にムカつくね…どうして兄さんが専務で俺が統括部長だと思う?兄さんにはそれだけ器があるからだ。後は俺より先に生まれたからだ…」



隆人の口調は荒い…



隆人は拳を握りしめて悔しそうにまた言った…



「兄さんに今後会社を継ぐ意志がないなら、俺に会社を譲って欲しい。兄さんには専務の座を退いてほしいんだ…」



隆人が言った言葉の裏にある真意を僕は読み取った…



会社は俺がやっていく…



兄さんは自由になっていい…



僕には隆人がそう言っているように感じた…