winter song 〜君に捧ぐたった一つの歌〜

親愛なる息子の拓人へ…



拓人…


貴方は昔から本当に優しい子でしたね。


私は貴方が産まれた日のことを忘れません。


貴方が産まれたのは、秋に差し掛かった紅葉の季節でした。


紅葉の葉っぱが静かに散っていて、綺麗な日だったのを覚えていますま。


私は初めての子供に期待と胸を膨らませ、貴方が産まれてくる日を心待ちにしていました。
  

貴方が産まれた時はお父さんと一緒に泣いて喜んだ事を覚えています。

 
貴方は意外に思うかもしれませんが、お父さんはあんな感じでも、奥に秘めた優しさがある人なのです。


貴方を葉山家の長男として、跡取りとして、強く、逞しく育てなければと貴方に強く当たっていたけれど、本当はどこかで拓人は拓人らしくていいと認めていた…


でも、自分もそう育てられたから、長男として押さえつけられて育ってきた人だから、貴方にも自分と同じようにしていいと思ってしまったのだと思います。


貴方は私の事を、お父さんの顔色を窺ってばかりいる可哀想な母親に見えていたかもしれないけど、そんな事はありません。


だから拓人、お父さんを憎まないであげてください。


小さい頃から上からものを押し付けられて、長男だから会社を継げと教えられ、優しい貴方にはさぞかし重荷だった事でしょう。


でも、お父さんには仕方なかったのです。


会社を守る為、会社を背負う為、お父さんはああなるしかなかったのです。


拓人、貴方は性格の優しい私の自慢の息子です。


自分を葉山の家にそぐわないと蔑む事なんて何一つありません.


貴方は貴方のままでいいのです。

 
貴方は貴方のしたい事をして、自由に生きてください。


貴方が幸せになる事を心から願っています。


もう一つの封筒に入っているのは、貴方が壌土されるはずの貴方名義の株です。


貴方のこれからの生活に使ってください。


貴方の心からの幸せを願って…。




母より