夜の街を、あてもなく歩いた。
人の笑い声が遠くで響いている。
どこかに紛れ込みたくて、足の向くまま進んだ先に、小さなバーの灯りが見えた。
昔、朔と来たことのある店だった。
でも今日は、彼の隣じゃない。
一人で扉を押す。
鈍い音とともに、ほの暗い空気が体を包んだ。
「いらっしゃいませ」
低く穏やかなマスターの声。
私はカウンターの端に腰を下ろした。
グラスが磨かれる音と、氷が鳴る音だけが心地いい。
「何になさいますか?」
――いつもなら、可愛く見えるカクテルを頼んでいた。
朔の前では、甘くて、軽くて、色のきれいなものばかり。
でも今はもう、そんなふうに取り繕う必要はない。
「……梅酒、ロックで」
自分の声が、少し震えた。
マスターが静かにうなずき、グラスの中に氷を落とす。
澄んだ音が響いて、心の奥まで透き通るようだった。
グラスの縁に口をつけると、甘さのあとに、ゆるやかな苦味が広がった。
それはどこか、私の恋に似ていた。
ただ、静かに終わりを受け入れるしかなかった。
人の笑い声が遠くで響いている。
どこかに紛れ込みたくて、足の向くまま進んだ先に、小さなバーの灯りが見えた。
昔、朔と来たことのある店だった。
でも今日は、彼の隣じゃない。
一人で扉を押す。
鈍い音とともに、ほの暗い空気が体を包んだ。
「いらっしゃいませ」
低く穏やかなマスターの声。
私はカウンターの端に腰を下ろした。
グラスが磨かれる音と、氷が鳴る音だけが心地いい。
「何になさいますか?」
――いつもなら、可愛く見えるカクテルを頼んでいた。
朔の前では、甘くて、軽くて、色のきれいなものばかり。
でも今はもう、そんなふうに取り繕う必要はない。
「……梅酒、ロックで」
自分の声が、少し震えた。
マスターが静かにうなずき、グラスの中に氷を落とす。
澄んだ音が響いて、心の奥まで透き通るようだった。
グラスの縁に口をつけると、甘さのあとに、ゆるやかな苦味が広がった。
それはどこか、私の恋に似ていた。
ただ、静かに終わりを受け入れるしかなかった。


