終わらない物語を君へ

 みどりは一人、紙コップを見つめる。

 湊のLINE。
 結衣の言葉。

 誰かとご飯を食べる、という選択肢が、
 今日だけで、いくつも増えてしまった。

 当たり前の日常を変えるのが怖い。
 でも——

 そんなことを考えていた時だった。

「みどり」

 背後から、穏やかな声がする。

 振り返ると、蓮が立っていた。
 いつものように、柔らかく微笑んでいる。

 結衣とは、ちょうど入れ違いだったらしい。
 ドアの向こうを一瞬見てから、蓮はみどりに視線を戻した。

「何かいいことでもあった?」

 唐突な問いに、心臓が小さく跳ねる。

「……なんで?」

 蓮は少し首をかしげて言う。

「だって、みどり」

 責めるでも、探るでもなく。

「なんだか、嬉しそうだよ」

 胸の奥が、きゅっと縮む。

「……別に」

 そう答えながら、視線を逸らした。

「何でもない」

 蓮はそれ以上、踏み込まなかった。
 ただ、いつも通りの距離で、隣に立つ。

「そっか」

 それだけ言って、みどりの表情を静かに見つめる。

 責める色はない。
 探る気配もない。

 それなのに——
 胸の奥を、やさしく撫でられたみたいで、逃げ場がなくなる。