終わらない物語を君へ

「……あの、えっと、蓮」

 声がうまく出ない。胸がドクドクとうるさくて、自分の声が震えているのがわかる。

「なに?」
 蓮は首を少し傾け、穏やかな目で私を見た。

「と、とりあえず……その……」
 思わず視線を泳がせながら、言葉を探す。
 何がどうなっているか全然わからない。
 けど、ひとつだけわかることがある。

「あなたは……その……家にいて!」

 叫ぶように言ってしまった。
 自分でも何を言っているのかわからないのに、蓮はふっと口元を緩める。

「家に?」

「そ、そう!私、学校行かなきゃだから。だから、とりあえず……!ここにいて!外に出ないで!」

 我ながら滅茶苦茶だ。
 でも今はそれしか言えなかった。

 蓮はゆっくり瞬きをして、やわらかく笑った。

「わかった。みどりが帰ってくるまで、ここで待ってる」

 その声が、あまりに普通で、逆に心臓が跳ねた。
 ページの中の人だったはずの蓮が、当たり前のように返事をしてくれるなんて。

「……本当に、ここにいてよね?」
 小さく念を押すと、蓮はまた笑った。

「もちろん。どこにも行かないよ。みどりの言うことは絶対だから」

 その“当たり前”のような言い方に、胸の奥が妙にざわつく。
 これが夢じゃないなら、本当に私はどうすればいいの?

 鞄を握りしめ、玄関に立つ私の背中に、蓮の穏やかな声が落ちた。

「いってらっしゃい、みどり」

 その声が、やけに心に残って離れなかった。