講義の途中、ノートを取る手が止まっていると、彼がペン先で自分のノートを指した。
「……ここ、大事」
視線を落とすと、確かに板書が進んでいた。
慌てて書き写す。
「助かりました」
そう言うと、また小さく「別に」と返ってきた。
言葉は少ない。
愛想もない。
でも—— 優しい。
それが、少しだけ心に引っかかった。
講義が終わり、立ち上がろうとしたとき、彼が初めてこちらを見た。
「……篠塚 湊(しのずか みなと)」
「え?」
「名前。俺の」
一瞬遅れて、みどりは答える。
「みどりです」
「……そ」
それだけ言って、悠真は先に教室を出ていった。
背中を見送りながら、みどりは思う。
変な人。
でも、嫌じゃない。
——ふと、思い出す。
この講義、出席を取らないせいか、席がぽっかり空いていた。
そして、決まって見かける名前がある。
篠塚 湊。
履修者名簿では何度も見たのに、実際に姿を見たのは今日が初めてだった。
いつも休んでいる人。
サボり常習犯。
——不良?
そう思って、さっきの横顔を思い浮かべる。
乱暴な態度でもなかった。
目つきも、言葉も、ただ不器用なだけ。
むしろ、気づかれないように助けてくるところが、妙に真面目だった。
よく分からない人。
でも、思っていた「悪い人」とは、少し違う。
その違和感を、胸の奥に残したまま、みどりは教室を出た。
「……ここ、大事」
視線を落とすと、確かに板書が進んでいた。
慌てて書き写す。
「助かりました」
そう言うと、また小さく「別に」と返ってきた。
言葉は少ない。
愛想もない。
でも—— 優しい。
それが、少しだけ心に引っかかった。
講義が終わり、立ち上がろうとしたとき、彼が初めてこちらを見た。
「……篠塚 湊(しのずか みなと)」
「え?」
「名前。俺の」
一瞬遅れて、みどりは答える。
「みどりです」
「……そ」
それだけ言って、悠真は先に教室を出ていった。
背中を見送りながら、みどりは思う。
変な人。
でも、嫌じゃない。
——ふと、思い出す。
この講義、出席を取らないせいか、席がぽっかり空いていた。
そして、決まって見かける名前がある。
篠塚 湊。
履修者名簿では何度も見たのに、実際に姿を見たのは今日が初めてだった。
いつも休んでいる人。
サボり常習犯。
——不良?
そう思って、さっきの横顔を思い浮かべる。
乱暴な態度でもなかった。
目つきも、言葉も、ただ不器用なだけ。
むしろ、気づかれないように助けてくるところが、妙に真面目だった。
よく分からない人。
でも、思っていた「悪い人」とは、少し違う。
その違和感を、胸の奥に残したまま、みどりは教室を出た。


