終わらない物語を君へ

 静かに流れる朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。
 その柔らかな光の中で、蓮の髪がきらりと光る。

――これは本当に、現実なんだろうか。
 夢の中みたいに、時間の感覚がどこか遠くにある。

 彼は私の隣で、まだ穏やかに呼吸をしていた。
 それを確認するたびに、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……どうしよう」

 頭を抱えて小さくつぶやく。
 こんなの、誰に説明すればいいの。
 昨日まで小説の中にいた人が、今ここにいるなんて。

「……みどり」

 ずっとその名前を呼んで欲しいと願っていた。
 低く囁く声に、名前を呼ばれるたび、心臓が跳ねた。
 現実の空気が、急に色を持ち始める。

――落ち着け、私。とにかく落ち着け。

 夢ならそろそろ覚めるはず。
 でも、頬に当たる朝日も、彼の声も、全部がリアルすぎる。  

「不思議と懐かしいんだ」

 蓮は部屋の中を見渡して、少しだけ目を細める。

「君の匂いも、部屋の空気も。……全部、知ってた気がする」

 心臓がぎゅっと縮む。
 知ってた? 
 だって、彼は――本の中の登場人物のはずなのに。

 混乱の中、ふとスマホのアラームが鳴った。
 いつもの時間。いつもの朝。
 それなのに、今この部屋には“非日常”が座っている。

「……やば、学校行かなきゃ」

 現実に引き戻されるように呟くと、蓮は少し驚いた顔をした。

「学校?」
「うん。あ、でも……あなたどうするの? 外、出られるの?」

「さぁ」
 その一言で、また空気が止まる。

 けれど、彼は穏やかに笑って言った。

「でも、みどりが行くなら……僕も行くよ」

――まさか。

 小説の中の彼が、現実の学校に?
 ありえないと思うのに、蓮の笑顔は、どこまでも自然だった。