終わらない物語を君へ

「……一回だけだからね」
 小さく息を吐き、スプーンに一口分のオムライスを乗せる。
 震えないように気をつけながら、そっと差し出した。

「……はい、あーん」
「うん」

 蓮は素直に口を開けて、ゆっくりと噛んだ。
 そして、笑った。
「やっぱり、美味しい」

 その笑顔に、また胸の奥がふっと熱を帯びる。
 ――あぁもう。

 なんでそんな顔するの。

 恋なんて、今までしたことがなかった。
 始め方も、進め方も知らない。
 こんな気持ち、知らない。

「あ、今、愛おしいなって思ったでしょ」
  蓮はしてやったという顔でニヤリと笑う。

「思ってないから!」
「そう?僕は思ったよ。愛おしいって」

 蓮の伸ばした手が、そっとみどりの唇に触れる。
 唇をなぞるかのようについていたケチャップをぬぐい、それを自然に舐めた。

「ちょ……やめてよ!」

 みどりは視線を落としながら、自分の皿のオムライスをすくう。

「みどり、もう一回、あーんして」
「…うるさい、自分で食べて!」

 心臓がどくんと鳴った。
 そんな自分に気づかれたくなくて、慌てて視線を皿に落とす。

「知らないのよ…愛し方なんて。終わりがくるものは嫌いなの」

 そう言ったみどりを、蓮はただ見つめていた。

「終わらないよ。僕のこの気持ちは、ちゃんとここにある。これは、僕とみどりだけのものだよ」

蓮は自分の胸に手を当てた。そして、みどりの手を取り、また、蓮の胸に当ててみせた。

どくん、どくん、と音がする。
ちゃんと生きている。ここにいる温かさを感じた。

「みどりは知らなくてもいいよ。僕が教えてあげるから」

 蓮は変わらず笑っていて、優しい声で言った。
「みどりと食べると、なんでも美味しいね」

「……バカ」
 小さく呟いて、フォークを口に運ぶ。

 蓮はすごく美味しいと褒めてくれたけれど、味なんてほとんどわからなかった。
 舌よりも、胸の高鳴りが気になって仕方がなかったから――