終わらない物語を君へ

 みどりは視線を逸らし、慌ててフライパンを揺らした。
「ほ、ほら、もうすぐできるから。席ついてて!」

「手伝うよ」
「い、いいの! もうちょっとで終わるから!」

 ぷいっと背を向けたまま、必死に平静を装う。
 でも、耳がじんじんして、落ち着かない。
 ――なんなの、もう。
 あんなこと言われたら、意識しないわけがない。

 彼は恋愛小説の中の登場人物なわけで。
 もちろん、そういう設定なのだろうけれど。
 
(本気にするな…みどり…本気になるな…)

 ちらりと視界の端で、椅子に腰掛ける蓮を見る。
 柔らかな笑顔。
 その笑顔を見るだけで、胸の奥がまた小さく鳴った。

 焦げないようにと必死に卵を返した。
 焦げそうなのは、私自身だ――