終わらない物語を君へ

――家に戻ると、みどりは袖をまくって言った。

「じゃあ、約束のオムライス作ろっか」

 蓮はキッチンに立ち、辺りをきょろきょろと見回していた。

「どうやって作るの?」
「スーパーで買った卵とケチャップ」

 みどりが袋から取り出して見せると、蓮はまじまじとそれを見つめた。

「これが、さっきの“食材”……」
 まるで宝石でも見るように、卵を両手でそっと持ち上げる。

「そう。これを割って、混ぜて、焼くの」
「……割る?」

 不安そうに卵を見つめる蓮の手を、みどりが軽く取った。
「ほら、こうやって――コンってやって、パカッ」

 卵がボウルに落ち、黄色い液体が広がる。
「おお……!」
 蓮の目がさらに輝いた。

 みどりは笑いながら泡立て器を手に取った。

「そしてこうやって混ぜるの」

 ボウルの中で卵を混ぜながら、みどりは小さく鼻歌を口ずさんでいた。
 ふと、その背後から――ふわりと温もりが近づく。

「っ……え?」

 次の瞬間、後ろからそっと腕が回される。
 背中に触れるのは、あたたかな体温。

「僕も、やりたい」
 耳元で低く囁く声に、思わず肩が跳ねた。

 振り向けない。
 だけど、鼓動の音がどんどん速くなっていくのが自分でもわかった。

 蓮が、みどりの持つ泡立て器の上から、そっと手を重ねる。
「こうやって混ぜるんだよね?」

 カシャ、カシャ、とボウルの中で卵が揺れる。
 その音が、やけに大きく響いた。
 自分の心臓の音まで、彼に伝わってしまいそうで――
 みどりは思わず息を潜めた。

「僕、1人じゃできないから……みどりが教えて」
 蓮の声が、背中越しに柔らかく響く。

 ――ずるい。そんな言い方。