終わらない物語を君へ

――初めてのスーパーの帰り道。
 エスカレーターを降りる途中で、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

「……なにこれ!」

 蓮が目を丸くして立ち止まる。
 視線の先には、くるくると焼かれていくクレープ生地。
 色とりどりの果物やクリームが、ショーケースの中で輝いていた。

「クレープだよ。甘くて美味しいんだ」

 みどりが笑いながら答えると、蓮はショーケースに顔を近づける。
「こんな食べ物、見たことない。美味しそう……!」

 その瞳が、子どもみたいにきらきらと輝いていた。

「でもね、今日はオムライスのために我慢しよ」

「えっ」

「ご飯って、お腹が空いてないと美味しく感じないの。だから今日は、また今度にしよう。……また今度、一緒にこようね」

 みどりが微笑む。
 蓮はその言葉を繰り返すように、静かに呟いた。

「また……今度」

 その響きが、胸の奥にじんわり広がる。
 “また今度”――そんな未来を、自分も選べる。
 それが、こんなにもあたたかいものだと初めて知った。

 彼はそっと笑った。
 甘い香りの中で、心まで満たされていくように。