終わらない物語を君へ

 カフェの店内は、昼下がりの穏やかな空気に包まれていた。
 けれど、ピークの時間が近づくにつれ、その静けさは少しずつ賑わいへと変わっていく。

 忙しくなったフロアで、みどりは迷いなく動いていた。

 お客さんが来れば、自然な笑顔で迎え、注文を取る声は落ち着いていて、聞き取りやすい。
 伝票を扱う指先は正確で、ドリンクや料理を運ぶ動きには、ひとつの無駄もなかった。

 まるで、ここが自分の居場所だと知っている人の動きだ。

 普段は控えめで、どちらかと言えば静かなみどり。
 けれど、仕事をしている彼女は、驚くほど堂々としていて、その姿は光をまとっているように見えた。

 ――こんな顔、簡単に見せるものじゃないのに。

 蓮はカウンターの隅に腰掛けたまま、その背中を目で追っていた。
 気づけば、無意識に口元が緩んでいる。

 誇らしい。
 そんな感情が、胸の奥で静かに広がっていく。

 ふと、近くの席から声が聞こえた。

「ねえ、あの店員さん、すごく接客いいよね」

「うん。落ち着いてるし、感じもいい。……でもさ、ちょっと地味じゃない?顔、整ってるのに、もったいない」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 評価されたことが嬉しい。
 でも同時に、簡単に分かったような口をきかれるのが、少しだけ悔しい。

 ――地味なんかじゃない。

 みどりは、自分のやり方でちゃんと輝いている。