蓮は少し間を置いてから、静かに尋ねた。
「ねぇ、みどり。働くって、お金のためだけじゃないよね?」
みどりはグラスを置いて、目を瞬かせた。
「どうして?」
「今日、忙しくて大変だったけど……なんか、生きてる感じがしたんだ。“誰かに必要とされる”って、すごく大きいことなんだね。僕、小説の中では味わえなかった気持ちを、今ここで感じている気がする」
その真っ直ぐな言葉に、みどりの胸が少し締めつけられた。
彼が“物語の中の存在”だったことを、改めて思い出す。
それでも――彼は今、こうして自分の隣にいる。
息をして、想いを抱いている。
「そうだね。お金も大事だけど……“誰かのために頑張る”って気持ちは、もっと大事なのかもね」
みどりは優しく微笑んで、続ける。
「焦らなくていいんじゃないかな。私だってまだまだわからないことがあるよ。無理はしないで、少しずつ色々感じていけばいいよ」
蓮は頷き、少し恥ずかしそうに笑った。
「うん。……僕、もう少し頑張りたいんだ。みどりの隣で、“一緒に生きてる”って感じたいんだ」
みどりは息を呑んだ。
その言葉はまるで、静かに心の奥を撫でるようで。
彼の瞳には、真剣な想いが宿っていた。
――この世界に、彼がいる。
その事実だけで、胸が温かくなる。
「……うん。頑張ろうね、蓮」
そう言って笑うみどりの横で、蓮も柔らかく微笑んだ。


