終わらない物語を君へ

 夜の街は静かで、通りの灯りが淡く道を照らしていた。

 バイトを終え、二人並んで歩く帰り道。
 みどりは少し疲れた顔で笑い、隣を歩く蓮に声をかけた。

「……お疲れさま。今日は本当に頑張ったね」

「うん。初めてだったけど、楽しかった」
 蓮はどこか満足げに微笑む。

「お客さんに“ありがとう”って言われた時、なんか嬉しかったんだ。働くって、こういう気持ちなんだね」

 その素直な言葉に、みどりは少し胸が温かくなった。

 まっすぐな蓮の表情を見ていると、初めて社会に出た頃の自分を見ているようだった。
 不安と期待が入り混じって、毎日が小さな挑戦だった。

 人と関わるのが怖くて、それでも生きていくにはお金が必要で、勇気を出して始めたアルバイト。

 店長はすごく優しくて、いい人で、私なんかのことを気に入ってくれて、それが嬉しかった。

 お客さんも、ごちそうさまでしたと笑ってくれるだけで、私はここに存在していいのだと言われているようだった。
 そんな気持ちを、蓮は思い出させてくれた。

 部屋に戻ると、二人はいつものようにソファに並んで座った。
 湯気の立つマグカップを手に、みどりが問いかける。

「どうだった? やってみて、大変だったでしょ?」

「ううん。もちろん失敗もしたけど……みどりがそばにいると安心するんだ。“こうすればいいよ”って言われると、不思議と焦らなくなるんだ」

 みどりはその言葉に少し照れながらも、頬をゆるめた。

「それならよかった。……でも、コーヒー豆を運んでくれたり、レジのフォローしてくれたり。正直、すごく助かった」