終わらない物語を君へ

 蓮はカウンター越しに店内を見渡し、目を輝かせている。

「……わぁ、こんなふうになってるんだ」

 いつも小説の中でしか知らなかった世界を、自分の手で確かめるように。
 その姿に、みどりは思わず見とれてしまった。

(憧れの人と同じバイトなんて……少女漫画みたい)

 心の中でそう思って、慌てて首を振る。
 いやいや、落ち着け、これはただの研修。仕事。現実。

「まずはレジの操作を覚えようか」
 みどりは少しだけ声のトーンを整え、カウンターの前に立つ。

「ここを押すと注文が入るの。次に……」

 蓮は真剣な表情で画面をのぞき込み、時々うなずきながら操作を覚えていく。
 その距離が近くて、肩がほんの少し触れた。

(ちょ、ちょっと近い……!)
 みどりの心臓がどくんと跳ねる。
 なのに蓮は無邪気な笑顔で、「へぇ……こうやってお金が動くんだ」と感心しているだけ。

 無防備な横顔に、みどりは思わず目を逸らした。

「お客さんへの対応も大事だよ」

 そう言うと、蓮は少し背筋を伸ばして、にこっと笑う。

「こんにちは、いらっしゃいませ……!」

 その声が響くたび、店内がふっと明るくなる気がした。
 通りがかったお客さんまでも、思わず笑顔になる。

(……ずるい。そんな笑顔、反則だよ)

 ちょっとした失敗もあったけれど、みどりがさりげなくフォローすると、蓮は照れたように笑った。