終わらない物語を君へ

「……みどり、すごいね」

「え? 何が?」

「普通、怒ったりするでしょ。服、汚れたのに」

 みどりは自分の袖を見て、少しだけ肩をすくめた。

「怒っても、何も変わらないし。あの子、怖かったと思うから」

 その何気ない一言が、蓮の胸にすとんと落ちた。

 ああ、そうか。

 この人は、自分がどうなるかより、目の前の誰かを先に見る人なんだ。

 迷いのない優しさ。

 蓮は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

「……ほんとに、大丈夫?」

 もう一度聞くと、みどりは少し困ったように笑った。

「うん。これくらい」

 そう言いながらも、袖口を無意識に引き寄せる仕草が、どこか寒そうに見えた。

 考えるより先に、体が動いていた。

「ちょっと、待って」

 椅子の背から立ち上がり、パーカーのファスナーを下ろす。みどりが目を丸くした。

「なに……?」

「いいから」

 半ば強引に、パーカーを脱いで、そっと肩にかける。
 自分の体温が残っている布が、みどりを包んだ。

「……いらないってば」

 そう言いながらも、拒む手は弱くて、結局そのまま着てしまう。

 耳まで赤くなっているのを見て、胸がきゅっと鳴った。

「汚れ、隠れるし。冷えるから」

「……蓮、過保護」

 ぶっきらぼうな声。
 でも、視線は合わない。

 その反応が、なんだか可笑しくて、愛おしくて。