終わらない物語を君へ

 そのときだった。

「わっ——!」

 小さな声と同時に、何かがぶつかる感触がして、次の瞬間、冷たいものがみどりの服に広がった。

 オレンジ色のジュース。

 振り返ると、ストローの刺さった紙パックを握りしめた小さな子どもが、立ち尽くしていた。
 目はみるみるうちに潤み、唇が震え出す。

「……ご、ごめんなさい……」

 今にも泣き出しそうなその子を見て、蓮は慌てて立ち上がった。

「だ、大丈夫!? みどり、服……!」

 けれど、みどりは服を見るより先に、しゃがみ込んだ。

「大丈夫だよ。びっくりしたよね」
 
 目線を合わせ、やさしく声をかける。

「怪我はない? どこか痛くない?」

 子どもはこくん、と小さく首を振ったあと、堪えていた涙をぽろぽろとこぼした。

「そっか。よかった」
 
 みどりはハンカチを取り出して、子どもの手と口元をそっと拭いた。

「服はね、洗えばきれいになるから。これくらい、全然大丈夫」

 そう言って、笑った。

 その笑顔は、さっき蓮に向けられたものより、少しだけ柔らかくて、あたたかかった。

「……ほんとに?」

 不安そうに聞く子どもに、みどりはもう一度うなずく。

「ほんと。だから泣かなくていいよ」

 しばらくして、親に手を引かれて子どもが去っていくと、蓮はまだ立ち尽くしたまま、みどりを見ていた。