終わらない物語を君へ

「どんなみどりでも、僕は隣にいたいよ」

 穏やかな声だった。
 まるで、心の奥に直接触れるような。

 その言葉が、たとえ“何かの台詞”だったとしても――
 わたしの中の何かを、確かに少しずつ動かしていた。

 街を歩く人の波の中で、蓮の横顔を見上げる。
 彼は何も知らない世界のすべてを、新しいもののように見つめていた。

 その姿が、少しだけ羨ましくて。
 ――わたしも、そんなふうに生きてみたいと思った。

 誰かの視線に怯えることなく、自分のままで、笑えるようになりたい。

 蓮と並んで歩くこの道が、ほんの少しだけ、自分を変えてくれる気がした。
 
 そんなことを考えていたとき――

「それに、そのリップの色、可愛いね」

 不意に蓮が言った。
 みどりは一瞬、足を止めてしまう。

「なっ……! 気づいてたの!?」

 頬が一気に熱くなる。
 ほんの気まぐれでつけただけなのに、彼に見られていたと思うと、なんだか息が詰まりそうだ。

 蓮は少し首をかしげながら、柔らかく笑った。

「うん。昨日のみどりも好きだけど、今日のみどりも、すごくいい」

 その言葉が、胸の奥でじんわりと広がっていく。

 通りを行き交う人たちのざわめきが遠くなる。

(……もう、そんなこと言われたら……)

 顔を背けたまま、みどりはこっそり唇に触れた。
 たったひと塗りの色なのに、心まで染まっていくようだった。