終わらない物語を君へ


「おはよう、みどり」

 心臓が跳ねる。振り返ると、蓮が眠そうに伸びをしていた。

「お、おはよう……」

 ぎこちなく返事をするみどり。
 誰かと"おはよう"だなんて、挨拶をしたのはいつぶりだろう。
 それだけで、まだ朝のぼんやりした空気に、色がついていくようだった。

「今日は大学、休みなの?」
「そう、休みなの。だから、今日は日用品を買いに行こうと思ってるんだ」

 朝食を食べながらみどりが言うと、蓮は目をぱちりと開け、興味深そうに首をかしげる。

「日用品?」
「うん。着替えとか、必要なものとか買わないとね。蓮も行く…よね?」
 口にしながら、自分でも頬が熱くなる。
 “蓮と買い物に行く”という響きが、どうしてこんなに胸をくすぐるのだろう。

「うん!行きたい!」
蓮は目を輝かせて喜んでいるように見えた。

「じゃあ、出かける準備してね」

 服を整え、鞄を持つみどり。
 蓮も、私が洗濯した昨日の服に着替えて、楽しそうに笑っている。

 外の空気はすっきりとして、街路樹の葉が光を受けて揺れていた。
 何でもない休日のはずなのに、蓮と一緒に歩くこの瞬間が、特別に感じられる。

「……全部、初めてのことみたいで嬉しいよ」

 蓮が小さくつぶやく。
 みどりは思わず微笑み、彼の肩を軽く叩く。

「それはよかった」

 二人の足取りは自然と軽くなり、これから始まる日用品探しの小さな冒険に、心が踊るみどりだった。