終わらない物語を君へ

「よし、終わり。じゃあ、私お風呂入ってくるね」
 
「……1人で脱げる? 手伝おうか?」
 蓮が心配そうに聞く。

「だ、大丈夫だから!」
 慌てて返事をすると、蓮は不思議そうに首を傾げた。

 (……冗談じゃないよ!)

 恋愛無経験の私にはハードルが高すぎる。
 みどりは深呼吸をひとつして、湯気の立つ風呂場に向かった。


 みどりは湯船から上がり、タオルで体を拭きながら、少し照れくさいけれどもどかしい気持ちを抱く。
 浴室を出ると、蓮はすでに部屋で落ち着いた様子でソファに座っていた。

「……お風呂、気持ちよかった?」
 蓮の柔らかな声に、みどりはうなずく。

「うん。ありがとう、待っててくれて」

 蓮は軽く笑い、肩をすくめる。
「もちろん。みどりが気持ちよく入れたなら、それでいいんだ」

 もう夜。外はすっかり暗くなっていて、部屋の中は柔らかな間接照明に包まれている。

「……次は歯磨き、かな」

 蓮もそれに気づき、うなずく。
「うん、歯磨きはちゃんとしないとね」

 小さな洗面所に並んで立つ。
 鏡にはちゃんと蓮が映っていて、これが夢じゃないんだと改めて感じた。

 みどりは軽く息を整え、歯ブラシを握る。
 一緒に磨くなんて、想像もしていなかったことだった。

(……お、おかしい。並んで歯磨きするだけで、なんでこんなにドキドキするの……)

 心臓の音が耳に届くほどに高鳴り、視線を鏡に落としても、少し赤くなっている自分に気づく。

 「歯磨きは、小説の中でもしたことがあるんだ」

 蓮は、鏡の向こうの自分と同じように真似をしてみたり、時々みどりの仕草をチラッと見たりする。

「……できた?」

 歯磨きを終えて鏡を見ながら聞くと、蓮は少し得意げに頷く。

「うん、これで完璧だと思う」

 並んで鏡を見ながら、ふたりで顔を少しずつ見合わせる。
 ただの歯磨きなのに、それだけでなんだか幸せに思えた。